たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
一緒にいるから
掃除洗濯料理。
やらなきゃいけないことは、まだ沢山ある。
でも、この家には何の音もない。
私は、テラスの柵に肘をかけて。
ピンクに溢れた中庭を、ただボーっと、眺めているから。
もう、シャツ一枚でも、全然寒くない。
なんなら、ポカポカしている。
(どうだろう……いや、二人のことだもん。心配いらないって)
私の中は、さっきからずっと、そんな声でいっぱい。結局、その声に負けた私。
(ああー、もう!だめだ!気になりすぎる!)
桜の木に背を向ける。
駆け出す。
テレビの前に着く。
映像を映し出す。
いきなり声が聞こえてくる。
「邦日映画コンクール、主演男優賞の発表です……」
(えっ、どうしよう!?もう!?)
テレビの前で立ったまま。
私は動けなくなる。
「………咲て、散らん。柳生拓真さんです!」
テレビの画面いっぱいに、拓真が映る。
紺のスーツを着て。
笑うでも、泣くでもない。
真っ直ぐ一点を見つめる。
気持ちばかり強張りが緩んだ。
そんな顔だ。
でも、私は、思いっきり気が抜けた。
ほっと、息つく音が、静寂に落ちる。
画面が、ズームアウトする。
そこは、大きなホール会場。
たくさんの拍手の音が広がる。
茶色の小さなスーツを着て。
湊が、隣のシートに座ってる。
拓真に向かって、ニコニコと拍手している。
拓真は、やっぱり変わらない。
感情のない顔で立ち上がる。
湊の顔もちゃんと見ない。
ただ、抱擁を交わす。
背中をポンポンと、二回叩く。
そして、その映像は、拓真の背中へと変わる。
たくさんの視線と拍手を受けながら、一人で歩いていく。皆、フォーマルな衣装を着ている。
壇上に上がる。
着物姿の老爺が、トロフィーを持って、立っている。拓真は、その人の前に立つ。
そして、深々と頭を下げながら、両手を出す。
トロフィーを受け取る。
老爺は、拓真の肩をポンポンと、叩く。
二人は、何か言葉も交わしている。
こちらには、言葉の内容まではわからない。
そして、拓真は顔を上げる。
壇上にいるのは、もう拓真だけ。
拓真は、トロフィーをじっと見つめたまま。
前を、向いた。
スタンドマイクに、口を近づけた。
「ええ。本当に、ありがとうございます。なんといって良いのか……」
そう、呆気に取られたように、言いながら。
ネクタイの結び目を、またきつく締めつける。
でも、私には、今日の拓真が、そんな冷静には見えなくて。
なぜなら、その目が、少し潤んでるように見えたから。
「実は、撮影に入る前。少しナーバスになっていたんです。でも、小濱湊っていう、凄い役者が僕の前にあらわれて」
やっぱり。
話す言葉も、そう。
感情をなるべく見せまいとしてきた、彼らしくないものだった。
そして、そのわずかに潤んだ視線は、聴衆の中で最も小さな湊へと、向けられる。
「さっき、あの子は、僕と出会えて良かったって言ってくれましたけど。それを言わなきゃいけないのは僕の方です。ぼう、ありがとう。出会えてよかった」
テレビには、もう音もない。
映像もない。
私は、背を向ける。
歩き出す。
また、テラスの柵に、肘をかける。
眉を下げて、笑いながら。
安堵の声を、漏らす。
「ああ……良かった……」
さっきは、あんなにぼんやりしていたのに。
今は、一枚一枚のピンクが、はっきり見える。
その人の心の状態で、桜の見え方はこんなに変わる。
拓真と籍を入れてから、もうすぐ一年。
私たちは相変わらず、全速力で日々を駆け抜けている。
でも、同時に。
こうして、ふと立ち止まって。
春の訪れを喜ぶことができている。
だから、私たちは、夫婦になった。
やらなきゃいけないことは、まだ沢山ある。
でも、この家には何の音もない。
私は、テラスの柵に肘をかけて。
ピンクに溢れた中庭を、ただボーっと、眺めているから。
もう、シャツ一枚でも、全然寒くない。
なんなら、ポカポカしている。
(どうだろう……いや、二人のことだもん。心配いらないって)
私の中は、さっきからずっと、そんな声でいっぱい。結局、その声に負けた私。
(ああー、もう!だめだ!気になりすぎる!)
桜の木に背を向ける。
駆け出す。
テレビの前に着く。
映像を映し出す。
いきなり声が聞こえてくる。
「邦日映画コンクール、主演男優賞の発表です……」
(えっ、どうしよう!?もう!?)
テレビの前で立ったまま。
私は動けなくなる。
「………咲て、散らん。柳生拓真さんです!」
テレビの画面いっぱいに、拓真が映る。
紺のスーツを着て。
笑うでも、泣くでもない。
真っ直ぐ一点を見つめる。
気持ちばかり強張りが緩んだ。
そんな顔だ。
でも、私は、思いっきり気が抜けた。
ほっと、息つく音が、静寂に落ちる。
画面が、ズームアウトする。
そこは、大きなホール会場。
たくさんの拍手の音が広がる。
茶色の小さなスーツを着て。
湊が、隣のシートに座ってる。
拓真に向かって、ニコニコと拍手している。
拓真は、やっぱり変わらない。
感情のない顔で立ち上がる。
湊の顔もちゃんと見ない。
ただ、抱擁を交わす。
背中をポンポンと、二回叩く。
そして、その映像は、拓真の背中へと変わる。
たくさんの視線と拍手を受けながら、一人で歩いていく。皆、フォーマルな衣装を着ている。
壇上に上がる。
着物姿の老爺が、トロフィーを持って、立っている。拓真は、その人の前に立つ。
そして、深々と頭を下げながら、両手を出す。
トロフィーを受け取る。
老爺は、拓真の肩をポンポンと、叩く。
二人は、何か言葉も交わしている。
こちらには、言葉の内容まではわからない。
そして、拓真は顔を上げる。
壇上にいるのは、もう拓真だけ。
拓真は、トロフィーをじっと見つめたまま。
前を、向いた。
スタンドマイクに、口を近づけた。
「ええ。本当に、ありがとうございます。なんといって良いのか……」
そう、呆気に取られたように、言いながら。
ネクタイの結び目を、またきつく締めつける。
でも、私には、今日の拓真が、そんな冷静には見えなくて。
なぜなら、その目が、少し潤んでるように見えたから。
「実は、撮影に入る前。少しナーバスになっていたんです。でも、小濱湊っていう、凄い役者が僕の前にあらわれて」
やっぱり。
話す言葉も、そう。
感情をなるべく見せまいとしてきた、彼らしくないものだった。
そして、そのわずかに潤んだ視線は、聴衆の中で最も小さな湊へと、向けられる。
「さっき、あの子は、僕と出会えて良かったって言ってくれましたけど。それを言わなきゃいけないのは僕の方です。ぼう、ありがとう。出会えてよかった」
テレビには、もう音もない。
映像もない。
私は、背を向ける。
歩き出す。
また、テラスの柵に、肘をかける。
眉を下げて、笑いながら。
安堵の声を、漏らす。
「ああ……良かった……」
さっきは、あんなにぼんやりしていたのに。
今は、一枚一枚のピンクが、はっきり見える。
その人の心の状態で、桜の見え方はこんなに変わる。
拓真と籍を入れてから、もうすぐ一年。
私たちは相変わらず、全速力で日々を駆け抜けている。
でも、同時に。
こうして、ふと立ち止まって。
春の訪れを喜ぶことができている。
だから、私たちは、夫婦になった。