たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
月が綺麗ですね
「風邪引くぞ」

ちょうど考えていた、その人の声がした。
すぐ、顔を上げた。

中庭の入り口に、拓真が立っていた。
寒そうに身体を抱きしめながら。

でも、湊がいない。

「……湊は?」

情けない声だ。

不安とか、落ち込みとか、抱えているものとか、ぜんぶ出てしまう。

「保高さんが見てくれるって。お前に随分と感謝してたぞ」

だから、私はそれだけ聞くと、すぐそっぽを向く。また、腕に顔を埋める。

申し訳ないけど、今の私は、拓真に構っている余裕はない。自分のことでいっぱいいっぱいだ。

「だいぶ飲んでたな」
「良いから、ほっておいて」

そう言っても、足音は近づいてくる。
隣から、その人の気配を感じる。

また、話しかけてくる。

「何だ?誰かに話したら、案外楽になるもんだぞ」

拓真は、もう前みたいに、何か、抱えているような感じを見せない。
重荷が取れたみたいに、声も明るい。

(そうだよね。拓真は、もう怖くなくなったんだから……私も、正直に話したら楽になれるのかな……)

そう思って、ちょっとだけ、顔を上げた。
目だけを出して、池を見た。

赤や黒の鯉は、相変わらず自由だ。

でも、私は、やっぱり、そうはなれない。

だって口にするのも恥ずかしい。
あまりにも身勝手な悩みだから。

だから、また、声に出せない気持ちを、はぁ……と吐き出す。

そのとき。
ゆらゆらと浮かぶ、まあるい月が、私の目に留まった。

私に言葉をくれた。
もう、深く考えることもなかった。
勝手に話しだしていた。

「ねえ」

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