口煩いと婚約破棄されまして~今更助けてくれ?見返りに貴方のお兄様を紹介しなさい~
episode.10
本日の天気は晴天。梅雨の中休みと言ったところだろう。
久しぶりの青空に気分も晴れやかで、鼻歌なんかを口ずさみながら城の中を歩いていた。
「シェンナ!」
中庭に通りかかった時、名前を呼ばれ足を止めた。
「あら、ジョシュ殿下」
声を掛けたのは、第二王子のジョシュ。こちらに走ってやって来るのが見えた。
どうやら、先日のハンバーガーの一件以来、懐かれてしまったらしく、姿を見れば声をかけてくれるようになった。
ジョシュ殿下はまだ12歳。食べ盛りの成長期という事もあり、ジャンキーなハンバーガーは彼の心と食欲を完全に掴んでしまったようだった。
「どこに行くの?」
「騎士宿舎ですよ。最近雨続きで中々足を運べませんでしたから」
「ふ~ん…」
ぐるぐると私の周りを一周したかと思えば、ピタッと足を止め「僕も行く」と言い出した。
まあ、別に断る理由もないので、一緒に行くことに。
人懐っこい殿下は誰からも愛されていて、姉弟のいない私は、急に弟が出来たようで可愛くてしょうがない。
「ねぇ、シェンナは今婚約者がいないんだろ?」
「えぇ。このままでは婚期を逃しそうですよね」
「あはは」と面白おかしく言ったつもりだったが、ジョシュからは笑い声が聞こえない。あれ?と思っていると、ジョシュがシェンナの前を阻むように立ちふさがった。
「じゃぁさ、僕がなってやる」
「え?」
「僕がシェンナの婚約者になる」
「いやいや……えぇぇぇぇぇ!?」
まさか12歳の子供に求婚されるとは思いもせず、ただただ驚いて仰け反ってしまった。
冗談かと思ったが、ジョシュの真っ赤に染まった顔と真剣な瞳を見たら流石に本気だと分かってしまう。
(おいおい本気か?)
ちょっと待って……この世界ではどうか分からないけど、12歳の子に手を出したなんて言ったら現代では完全に犯罪者。それ以前に、中身はアラサーの立派なおばさんなんだよ。
これはあれだ……婚活に行きづまり『彼の胃袋を掴んじゃうぞ♡』的なやつだ。
(なんて事だ)
穢れを知らない純粋無垢の子供の胃袋を掴んでしまった。
「シェンナは僕だと不満?」
「──くッ!」
目を潤ませ縋られると罪悪感と背徳感に心が打ちひしがれそうになる。心を落ち着かせる為に、大きく深呼吸をして、ジョシュと向き合った。
「気持ちは嬉しいんですが、殿下はまだお若い。今から沢山の出会いがあります。こんなおばさんよりも相応しい方がきっと現れますよ」
「?恋愛に歳の差は関係ないと父様が言っていたよ。それにシェンナはおばさんじゃない。魅力的で素敵な女性だよ」
「殿下……」
手を握られ、思わずキュンとしてしまった。
(いや、キュンとしてる場合じゃない)
「第一、身分が違いすぎます」
王子との婚約なんて家同士の問題じゃない。国が関わってくる。それこそ批判や非難が上がること必至。こればかりは避けて通れない。申し訳ないが、これで諦めてくれるだろう。
……そう思ったが、ジョシュは「ふっ」と不敵な笑みを浮かべた。
「僕の肩書は一応王子だけど、第二だからね。王位は第一王子の兄様が継ぐし、割と融通が利くんだよ。父様も自由恋愛賛成派だし、もし周りが何か言おうものなら僕が黙らせてあげる。ほら、僕らを阻む壁はないでしょ?」
ぐぅの音も出ないほどのドヤ顔で言われた。とても12歳とは思えない表情に心が落ち着かない。
「ねぇ、ダメ?」
キラキラとした純粋な目で見つめられたら、思わず頷いてしまいそうになる。
必死に顔を逸らし、目を見ないようにするが、ジョシュは畳み掛けるようにシェンナの身体に抱きついてくる。
「いいでしょ?シェンナ~」
甘えた声で名前を呼ばれたら母性本能がキュンキュン刺激され胸が痛いほど。
顔を赤らめ、言葉に詰まるシェンナを見て、ジョシュは勝ちを確信しニヤッと口角が吊り上がった。
「こら」
落ち着いた声と共に、ジョシュの体がシェンナから引き剥がされた。
「シェンナのを困らせてはダメですよ」
「デリック殿下!」
「──チッ」
笑顔で現れたのは第一王子であり、ジョシュの兄であるデリック殿下。その兄の顔を見た途端、ジョシュは天使の仮面を脱ぎ、邪魔だと言わんばかりに舌を打っていた。
デリック王子……この人を簡単に説明するならThe王子様な人。まさに聖人君子。次期国王を担うだけの器量と信頼は十分。……と言われているが、前世で人の汚い部分や醜い部分を嫌というほど見てきた私には分かる。
(コイツはヤバい)
終始笑顔で目が笑っていないヤツは大抵ヤバい。
持ち前の愛嬌で人の懐に入るジョシュ殿下とは違い、気付かぬうちに懐へ入り込み、あたかも当然のように振る舞う。違和感を感じても『デリック王子』と言う暗示にかかり、あっさり手の内に堕ちる。
つまり、何が言いたいのかと言うと、この人の腹の中は真っ黒ってこと。
「おやまぁ、随分と警戒されてますね」
「そんな事ありませんよ?」
「嘘が下手な人だ」
クスクスと楽しげに微笑んでいる。
「ジョシュ。シェンナの仕事を邪魔してはいけませんよ」
「えぇ!?そんなつもりはなかったんですぅ」
「……私に猫被りは通用しませんよ?」
ジョシュは瞳を濡らし、誤解だとデリックに縋るが秒で一蹴されてしまう。デリックは悔しそうに顔を歪めるジョシュに冷ややかな視線を向けている。
「兄弟喧嘩なら他所でやって来んない?」と口から出かかる言葉をグッと飲み込んだ。
シェンナはこの場にいるのが居た堪れず、そっと姿を消そうと、音を立てずゆっくり後退さった。
「あぁ、シェンナ」
「はぃぃぃ!?!!?」
ビクッと肩が震え、敬礼しながら返事を返した。
(危うく心臓が口から出かかったよ…)
バクバクと落ち着かない心臓を押さえていると、ポンと肩を叩かれた。
「ジョシュが嫌なら私にしますか?」
「は!?」
「あぁ~!兄様狡い!シェンナは僕のだぞ!」
胸に手を当てながら満面の笑みでいわれた。すぐにジョシュの抗議する言葉が追ってくるが、まったく気に素振りはない。
「どうです?結構な優良物件だと思いますが?」
優良どころか最上級……それ故に私が手にしていいものじゃぁない。
「えっとぉ~……」
額から滝のような汗を吹き出しながら目を白黒させていると「ふはっ」と吹き出したような笑いが聞こえた。
「ふふっ、すみません。冗談ですよ」
「んなっ!」
揶揄われたと知り、一瞬で顔を真っ赤に染めた。
そりゃそうだ。この人が私なんかを相手にするはずがない。烏滸がましいことこの上ない。そんな事、少し考えれば分かったことなのに……!
悔しいやら恥ずかしいやらで、穴があったら入りたいところだが、乙女心を弄んだコイツにも腹が立つ。
気付けば、頬を赤らめつつも鋭い眼差しで睨みつけていた。
「おや」
視線に気付いたデリックは叱責するでもなく、静かに口角を吊り上げ、シェンナの傍へよった。
「その気があるなら私は大歓迎ですよ?」
「!!」
周りに聞こえないよう耳元で囁かれた。
「この子は連れていきます。ヴィクトル団長に宜しくお伝えください」
意味深な言葉を吐き、「ヤダヤダ!」と喚くジョシュの首元を掴むと、引き摺るようにしてその場を後にしていった。
久しぶりの青空に気分も晴れやかで、鼻歌なんかを口ずさみながら城の中を歩いていた。
「シェンナ!」
中庭に通りかかった時、名前を呼ばれ足を止めた。
「あら、ジョシュ殿下」
声を掛けたのは、第二王子のジョシュ。こちらに走ってやって来るのが見えた。
どうやら、先日のハンバーガーの一件以来、懐かれてしまったらしく、姿を見れば声をかけてくれるようになった。
ジョシュ殿下はまだ12歳。食べ盛りの成長期という事もあり、ジャンキーなハンバーガーは彼の心と食欲を完全に掴んでしまったようだった。
「どこに行くの?」
「騎士宿舎ですよ。最近雨続きで中々足を運べませんでしたから」
「ふ~ん…」
ぐるぐると私の周りを一周したかと思えば、ピタッと足を止め「僕も行く」と言い出した。
まあ、別に断る理由もないので、一緒に行くことに。
人懐っこい殿下は誰からも愛されていて、姉弟のいない私は、急に弟が出来たようで可愛くてしょうがない。
「ねぇ、シェンナは今婚約者がいないんだろ?」
「えぇ。このままでは婚期を逃しそうですよね」
「あはは」と面白おかしく言ったつもりだったが、ジョシュからは笑い声が聞こえない。あれ?と思っていると、ジョシュがシェンナの前を阻むように立ちふさがった。
「じゃぁさ、僕がなってやる」
「え?」
「僕がシェンナの婚約者になる」
「いやいや……えぇぇぇぇぇ!?」
まさか12歳の子供に求婚されるとは思いもせず、ただただ驚いて仰け反ってしまった。
冗談かと思ったが、ジョシュの真っ赤に染まった顔と真剣な瞳を見たら流石に本気だと分かってしまう。
(おいおい本気か?)
ちょっと待って……この世界ではどうか分からないけど、12歳の子に手を出したなんて言ったら現代では完全に犯罪者。それ以前に、中身はアラサーの立派なおばさんなんだよ。
これはあれだ……婚活に行きづまり『彼の胃袋を掴んじゃうぞ♡』的なやつだ。
(なんて事だ)
穢れを知らない純粋無垢の子供の胃袋を掴んでしまった。
「シェンナは僕だと不満?」
「──くッ!」
目を潤ませ縋られると罪悪感と背徳感に心が打ちひしがれそうになる。心を落ち着かせる為に、大きく深呼吸をして、ジョシュと向き合った。
「気持ちは嬉しいんですが、殿下はまだお若い。今から沢山の出会いがあります。こんなおばさんよりも相応しい方がきっと現れますよ」
「?恋愛に歳の差は関係ないと父様が言っていたよ。それにシェンナはおばさんじゃない。魅力的で素敵な女性だよ」
「殿下……」
手を握られ、思わずキュンとしてしまった。
(いや、キュンとしてる場合じゃない)
「第一、身分が違いすぎます」
王子との婚約なんて家同士の問題じゃない。国が関わってくる。それこそ批判や非難が上がること必至。こればかりは避けて通れない。申し訳ないが、これで諦めてくれるだろう。
……そう思ったが、ジョシュは「ふっ」と不敵な笑みを浮かべた。
「僕の肩書は一応王子だけど、第二だからね。王位は第一王子の兄様が継ぐし、割と融通が利くんだよ。父様も自由恋愛賛成派だし、もし周りが何か言おうものなら僕が黙らせてあげる。ほら、僕らを阻む壁はないでしょ?」
ぐぅの音も出ないほどのドヤ顔で言われた。とても12歳とは思えない表情に心が落ち着かない。
「ねぇ、ダメ?」
キラキラとした純粋な目で見つめられたら、思わず頷いてしまいそうになる。
必死に顔を逸らし、目を見ないようにするが、ジョシュは畳み掛けるようにシェンナの身体に抱きついてくる。
「いいでしょ?シェンナ~」
甘えた声で名前を呼ばれたら母性本能がキュンキュン刺激され胸が痛いほど。
顔を赤らめ、言葉に詰まるシェンナを見て、ジョシュは勝ちを確信しニヤッと口角が吊り上がった。
「こら」
落ち着いた声と共に、ジョシュの体がシェンナから引き剥がされた。
「シェンナのを困らせてはダメですよ」
「デリック殿下!」
「──チッ」
笑顔で現れたのは第一王子であり、ジョシュの兄であるデリック殿下。その兄の顔を見た途端、ジョシュは天使の仮面を脱ぎ、邪魔だと言わんばかりに舌を打っていた。
デリック王子……この人を簡単に説明するならThe王子様な人。まさに聖人君子。次期国王を担うだけの器量と信頼は十分。……と言われているが、前世で人の汚い部分や醜い部分を嫌というほど見てきた私には分かる。
(コイツはヤバい)
終始笑顔で目が笑っていないヤツは大抵ヤバい。
持ち前の愛嬌で人の懐に入るジョシュ殿下とは違い、気付かぬうちに懐へ入り込み、あたかも当然のように振る舞う。違和感を感じても『デリック王子』と言う暗示にかかり、あっさり手の内に堕ちる。
つまり、何が言いたいのかと言うと、この人の腹の中は真っ黒ってこと。
「おやまぁ、随分と警戒されてますね」
「そんな事ありませんよ?」
「嘘が下手な人だ」
クスクスと楽しげに微笑んでいる。
「ジョシュ。シェンナの仕事を邪魔してはいけませんよ」
「えぇ!?そんなつもりはなかったんですぅ」
「……私に猫被りは通用しませんよ?」
ジョシュは瞳を濡らし、誤解だとデリックに縋るが秒で一蹴されてしまう。デリックは悔しそうに顔を歪めるジョシュに冷ややかな視線を向けている。
「兄弟喧嘩なら他所でやって来んない?」と口から出かかる言葉をグッと飲み込んだ。
シェンナはこの場にいるのが居た堪れず、そっと姿を消そうと、音を立てずゆっくり後退さった。
「あぁ、シェンナ」
「はぃぃぃ!?!!?」
ビクッと肩が震え、敬礼しながら返事を返した。
(危うく心臓が口から出かかったよ…)
バクバクと落ち着かない心臓を押さえていると、ポンと肩を叩かれた。
「ジョシュが嫌なら私にしますか?」
「は!?」
「あぁ~!兄様狡い!シェンナは僕のだぞ!」
胸に手を当てながら満面の笑みでいわれた。すぐにジョシュの抗議する言葉が追ってくるが、まったく気に素振りはない。
「どうです?結構な優良物件だと思いますが?」
優良どころか最上級……それ故に私が手にしていいものじゃぁない。
「えっとぉ~……」
額から滝のような汗を吹き出しながら目を白黒させていると「ふはっ」と吹き出したような笑いが聞こえた。
「ふふっ、すみません。冗談ですよ」
「んなっ!」
揶揄われたと知り、一瞬で顔を真っ赤に染めた。
そりゃそうだ。この人が私なんかを相手にするはずがない。烏滸がましいことこの上ない。そんな事、少し考えれば分かったことなのに……!
悔しいやら恥ずかしいやらで、穴があったら入りたいところだが、乙女心を弄んだコイツにも腹が立つ。
気付けば、頬を赤らめつつも鋭い眼差しで睨みつけていた。
「おや」
視線に気付いたデリックは叱責するでもなく、静かに口角を吊り上げ、シェンナの傍へよった。
「その気があるなら私は大歓迎ですよ?」
「!!」
周りに聞こえないよう耳元で囁かれた。
「この子は連れていきます。ヴィクトル団長に宜しくお伝えください」
意味深な言葉を吐き、「ヤダヤダ!」と喚くジョシュの首元を掴むと、引き摺るようにしてその場を後にしていった。