口煩いと婚約破棄されまして~今更助けてくれ?見返りに貴方のお兄様を紹介しなさい~
episode.14
アーネストは自室で本に目を通していると、ドタドタと慌ただしい足音がこちらに向かってくるのが聞こえる。
「……来たか」
そう呟いたのと同時に激しい音を立てて扉が開かれた。そこには鬼の形相のシェンナが立っている。
「どういう事!!」
開口一番に言い放った言葉だ。
「騒々しいぞ」
「逆に冷静でいられるとでも!?」
怒鳴りながら詰め寄ってくるシェンナを窘めるでもなく、溜息を交えながら肘を付いた。
「何を聞きに来たのかは知らないけど、僕の口から言えることは何も無いよ」
なんとも白々しい言葉を並べてくる。
『僕の口から』って言ってる時点で私がここに来た理由は知っているって事だし、何らかの情報を持っているのは明白。
(別れ際に言いかけたのはこれか……)
数時間前、別れ際にアーネストが何かを言いかけたのを思い出した。
「……………言え」
「は?」
顔を俯かせてボソッと呟くシェンナにアーネストは眉を寄せて聞き返すと、急に胸倉を掴まれた。
「知っている事、全て吐き出せ」
目が据わった状態で睨みつけられ、アーネストも流石に両手を挙げた。
「分かった。……でも、君にあれこれ言う権利はないからな」
そんな事は百も承知。自分でもなぜここまで必死になっているのか分からない。私はヴィクトル団長の婚約者でもなければ家族でもない。あの人が誰とお見合いをしようと口を出せる権利も権限もない。
だけど、だけど……
「んじゃ、まずは、お茶でも淹れて」
「はぁ!?」
顎で指図され、少々ムッとしたが、そこは大人なのでグッと堪えて手早くお茶の用意を整えた。
***
人が行き交う街の中。物陰からソッと顔を出したのは、オレオを腕に抱いたシェンナだった。
「あそこ?」
『うん。あそこからヴィクトルの匂いする』
視線の先には劇場。
アーネストに見合いについて問い詰めたが、出てきた言葉は……
「本当のところ、僕が知っている事は見合いがあると言うことだけだ」
「は?」
あまりにも堂々とした態度で言うものだから、緊張して聞いていた私の口からは間の抜けた声が出た。
「そんはずあるかーーー!!」
「お、落ち着け!本当なんだよ!兄上のことは僕の耳には入ってこない!今回の事だって、使用人達が話してるのを聞いただけだ!」
ドンッと得意気に胸を張って言われた。
そんなの、自分が信用されていないから聞かされないって言っているようなもの。
(分かってはいたけど、流石に……)
これには憐れに思い、怒鳴ることもせず「そっか」と声をかけてアーネストの元を後にした。
そして、シェンナが次に向かった先がオレオのいる騎士宿舎。魔獣であるオレオの嗅覚と聴覚はそこらの獣よりもはるかに鋭い。
オレオを敷地内から出すことは許されてないが、この子は大人しいし、気付かれる前に戻せば問題ないと勝手に連れ出した。
(お咎めは承知の上!)
今はお咎めよりも、団長様が何処ぞの馬の骨と一緒にいるということの方が気掛かりで仕方ない。
──そんな訳で、行き着いた先がここ。
最近の見合いの主流は、演劇観覧した後、お互いの気に入ったシーンや会話を話し合って、相手の好みや考え方を知るらしい。
最初に演劇を観ることで、会話にも困らず、相手の思想も知ることが出来ると、今や劇場は見合いの場として大人気。その為、出てくるのはどれもこれも若いカップルばかり。
『……僕、ここ嫌い。知らない人や知らない匂いがいっぱい』
生まれてからずっと森で暮らしてきたオレオにとって、街の空気や人の多さはストレスでしかない。
よく考えてみれば、ヴィクトル団長の居場所を突き止めたまではいいが、その後のことは考えていなかった。このまま乗り込む訳にはいかないし、偶然を装って声をかける?なんて?その女は誰って?
……そんなの、勘違い女のテンプレのようなものじゃないか。
シェンナは小さく息を吐くと、オレオを抱き上げた。
「帰ろうか」
『いいの!?』
「ええ、ごめんね。私の我儘に付き合わせて……」
小さな前足で鼻を押さえるオレオを見たら冷静にもなる。
ギュッとオレオを抱きしめ、背を向け、歩き出そうとしたところで『あ』とオレオが引き止めた。
『あれ見て、あれ』
オレオの視線の先には、ヴィクトル団長がいた。その隣には、上品に微笑みながら腕を絡める女性。落ち着いた雰囲気で大人の女性の色気を放っていて、ヴィクトル団長も女性の腰に手を回し、柔らかな笑みを浮かべている。誰が見てもお似合いな二人……
ドクンッと一瞬、胸が止まったような感じがした。
二人は仲睦まじく談笑を続けている。これ以上見ていたくないのに目が離せない。
胸が苦しくて、息をするのも苦しい。
しばらく見ていると、女性の方がヴィクトル団長の頬に手を添え、二人が互いに見つめ合う。ゆっくりと二人の距離が近付いて行くのが分かり……
シェンナはその場から逃げるようにして姿を消した。
(馬鹿だ……)
あんな人が傍にいたら小娘の私なんか相手にされるはずない……
今更になって自分の気持ちに気付いた所でどうしようもない。
『お姉ちゃん?泣いてるの?』
オレオの声もすらも今のシェンナの耳には入ってこなかった。
「……来たか」
そう呟いたのと同時に激しい音を立てて扉が開かれた。そこには鬼の形相のシェンナが立っている。
「どういう事!!」
開口一番に言い放った言葉だ。
「騒々しいぞ」
「逆に冷静でいられるとでも!?」
怒鳴りながら詰め寄ってくるシェンナを窘めるでもなく、溜息を交えながら肘を付いた。
「何を聞きに来たのかは知らないけど、僕の口から言えることは何も無いよ」
なんとも白々しい言葉を並べてくる。
『僕の口から』って言ってる時点で私がここに来た理由は知っているって事だし、何らかの情報を持っているのは明白。
(別れ際に言いかけたのはこれか……)
数時間前、別れ際にアーネストが何かを言いかけたのを思い出した。
「……………言え」
「は?」
顔を俯かせてボソッと呟くシェンナにアーネストは眉を寄せて聞き返すと、急に胸倉を掴まれた。
「知っている事、全て吐き出せ」
目が据わった状態で睨みつけられ、アーネストも流石に両手を挙げた。
「分かった。……でも、君にあれこれ言う権利はないからな」
そんな事は百も承知。自分でもなぜここまで必死になっているのか分からない。私はヴィクトル団長の婚約者でもなければ家族でもない。あの人が誰とお見合いをしようと口を出せる権利も権限もない。
だけど、だけど……
「んじゃ、まずは、お茶でも淹れて」
「はぁ!?」
顎で指図され、少々ムッとしたが、そこは大人なのでグッと堪えて手早くお茶の用意を整えた。
***
人が行き交う街の中。物陰からソッと顔を出したのは、オレオを腕に抱いたシェンナだった。
「あそこ?」
『うん。あそこからヴィクトルの匂いする』
視線の先には劇場。
アーネストに見合いについて問い詰めたが、出てきた言葉は……
「本当のところ、僕が知っている事は見合いがあると言うことだけだ」
「は?」
あまりにも堂々とした態度で言うものだから、緊張して聞いていた私の口からは間の抜けた声が出た。
「そんはずあるかーーー!!」
「お、落ち着け!本当なんだよ!兄上のことは僕の耳には入ってこない!今回の事だって、使用人達が話してるのを聞いただけだ!」
ドンッと得意気に胸を張って言われた。
そんなの、自分が信用されていないから聞かされないって言っているようなもの。
(分かってはいたけど、流石に……)
これには憐れに思い、怒鳴ることもせず「そっか」と声をかけてアーネストの元を後にした。
そして、シェンナが次に向かった先がオレオのいる騎士宿舎。魔獣であるオレオの嗅覚と聴覚はそこらの獣よりもはるかに鋭い。
オレオを敷地内から出すことは許されてないが、この子は大人しいし、気付かれる前に戻せば問題ないと勝手に連れ出した。
(お咎めは承知の上!)
今はお咎めよりも、団長様が何処ぞの馬の骨と一緒にいるということの方が気掛かりで仕方ない。
──そんな訳で、行き着いた先がここ。
最近の見合いの主流は、演劇観覧した後、お互いの気に入ったシーンや会話を話し合って、相手の好みや考え方を知るらしい。
最初に演劇を観ることで、会話にも困らず、相手の思想も知ることが出来ると、今や劇場は見合いの場として大人気。その為、出てくるのはどれもこれも若いカップルばかり。
『……僕、ここ嫌い。知らない人や知らない匂いがいっぱい』
生まれてからずっと森で暮らしてきたオレオにとって、街の空気や人の多さはストレスでしかない。
よく考えてみれば、ヴィクトル団長の居場所を突き止めたまではいいが、その後のことは考えていなかった。このまま乗り込む訳にはいかないし、偶然を装って声をかける?なんて?その女は誰って?
……そんなの、勘違い女のテンプレのようなものじゃないか。
シェンナは小さく息を吐くと、オレオを抱き上げた。
「帰ろうか」
『いいの!?』
「ええ、ごめんね。私の我儘に付き合わせて……」
小さな前足で鼻を押さえるオレオを見たら冷静にもなる。
ギュッとオレオを抱きしめ、背を向け、歩き出そうとしたところで『あ』とオレオが引き止めた。
『あれ見て、あれ』
オレオの視線の先には、ヴィクトル団長がいた。その隣には、上品に微笑みながら腕を絡める女性。落ち着いた雰囲気で大人の女性の色気を放っていて、ヴィクトル団長も女性の腰に手を回し、柔らかな笑みを浮かべている。誰が見てもお似合いな二人……
ドクンッと一瞬、胸が止まったような感じがした。
二人は仲睦まじく談笑を続けている。これ以上見ていたくないのに目が離せない。
胸が苦しくて、息をするのも苦しい。
しばらく見ていると、女性の方がヴィクトル団長の頬に手を添え、二人が互いに見つめ合う。ゆっくりと二人の距離が近付いて行くのが分かり……
シェンナはその場から逃げるようにして姿を消した。
(馬鹿だ……)
あんな人が傍にいたら小娘の私なんか相手にされるはずない……
今更になって自分の気持ちに気付いた所でどうしようもない。
『お姉ちゃん?泣いてるの?』
オレオの声もすらも今のシェンナの耳には入ってこなかった。