口煩いと婚約破棄されまして~今更助けてくれ?見返りに貴方のお兄様を紹介しなさい~

episode.17

「本当さぁ、世話が焼けるよねぇ。二人共」

 そう蔑みながら言ってくるのはカイエン。冷ややかな視線を全身で浴びて、物凄く居心地が悪い。

「焚き付けた僕も悪いとは思うけど、半月も顔を出さないのはどうよ?流石の僕にも罪悪感って感情はあるんだからね?」

 自分の落ち度と不満を懇々と述べてくる。

 今回の見合いが任務だと知っていたにも関わらず、煮え切らない態度の私を煽る為に、()()()任務だと伝えず『見合い』という言葉だけを伝えらしい。

「お互いに気があるのバレバレなのに、焦れったいんだよ。見てるこっちの身にもなってよ。流石にイラつくから」

 まさか周りに勘繰られていたとは露ほども知らず……

「まあ、雨降って地固まるってね。ようやく団長にも春が来たって訳だから、喜ばしい事だよ」

 カイエンは勢いを付けて立ち上がると、その勢いのまま私の頭に手を置いてきた。

「うちの団長を宜しく頼むよ」
「ちょっ、やめ!」

 ガシガシと乱暴に頭を撫でられ、綺麗に整えた髪はぐしゃぐしゃ。

「ははっ!可愛くなったじゃん!」
「んもぉぉぉぉ!!!」

 笑いながら揶揄うカイエンをシェンナが腕を振り上げて追いかけている。いつもの光景に、見ている騎士も笑顔を浮かべている。

 やっぱり嫌な奴だけど、この人のおかげでもある。

(悔しいけど、ありがと)

 口に出すのは癪なので、心の中で礼を伝えた。


 ***


 ──ヴィクトル団長と正式に婚約を結んだその日、私はアーネストの元を訪れた。

 隣にはヴィクトル団長がいる。

「ま、まずは、婚約、おめでとう、ございます……」

 まさか一緒だとは思っていなかったようで、ヴィクトル団長の顔を見た時のアーネストは心臓が止まったんじゃないかと思うほど、時が止まっていた。

 あまりの緊張で祝いの言葉もガチガチで噛み噛み。その緊張がこちらにも伝わって、私も額に汗が滲んでくる。

 アーネストは格好悪い所を見せてしまって落ち込んでいるのか、握りしめた拳を見つめるように顔を俯かせたまま黙ってしまった。

 沈黙が重い……

「アーネスト」
「は、はいっ!」

 最初に口を開いたのはヴィクトル団長だった。

「すまなかった」
「へ?」

 何を謝れているのか分からず、キョトンとした顔のまま止まっている。

「お前ともっと早くに向き合うべきだった。シェンナと出会い、少しずつだが変わっていくお前を見て、逃げていた自分を恥じた」

「兄として情けない」と頭を下げるヴィクトル団長にアーネストはオロオロとするばかり。

 嬉しさ半分、戸惑い半分といった所だろうか。

「あに……」
「ヴィクトル様が頭を下げる必要ありませんよ」

 アーネストが口を開きかけたのを遮るようにシェンナが口を挟んできた。

「この人は私でも手に負えませんでしたから。そもそも、言うことを聞かないから病になったんですよ?自業自得です」

 苦りきった顔で伝えると、アーネストが「おま、お前…」と震え始めた。

「それ、今言うことじゃないだろ!?少しは空気読めよ!」
「いや、このままではヴィクトル様が悪者になってしまいので」
「だ~か~ら~!そこを今から僕がちょっと良いこと言って上手く纏めようとしたんだよ!」
「あら、貴方にそんな弁論が出来るんですか?」
「ッぐ!」

 ほら見ろと言わんばかりに嘲笑って見せると、アーネストは悔しそうに唇を噛み締めている。

 そんな二人のやり取りを見ていたヴィクトルは、堪らず吹き出した。

「あはははは!」
「「!!」」

 豪快な笑い声に、アーネストもシェンナも瞬時に我に返った。

「すまんすまん。随分仲良いと思ってな。……少し妬けた」
「え」

 私の肩を抱きながらそんな事言うもんだから堪らない。

(顔が熱い)

 手で扇ぎ、熱を覚まそうとするが、ヴィクトルの体温を感じると冷めるどころか熱が増して来る。

「……イチャつくなら他でやってくれる?ムカつくから」

 アーネストの冷ややかな言葉に、ビクッと肩を震わせ、慌ててヴィクトルと距離を取った。

「続きは帰ってからな」
「!」

 低い声で耳打ちされ、全身が真っ赤に染まった。

「……兄上……」

 流石のアーネストも言葉を失ったようで、頭を抱えているが、その表情はどこか嬉しそうでもある。
 自分の知らなかった兄の姿を見れて、呆れよりも喜びが勝っているのだろう。

 これからもっと知ればいい。嫌な部分も誇れる部分も沢山ある。それをひっくるめて幸せだと……

「どうした?」

 昼間の様子を思い出し、クスクス小さく笑っているシェンナにヴィクトルが声をかけた。

「いえ、幸せだなと思って」
「あぁ……そうだな」

 ヴィクトルはシェンナを抱きしめると、優しく微笑みかけた。
 二人の視線がぶつかると、どちらともなく唇を合わせた。
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