愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?

6 夫という『味方』

 まだまだ残暑の続く、九月の半ば。私は今日も朝から光前寺総合病院に向かい、お花を交換していた。

 お花の管理は順調だった。一度だけ勝手に変わっていたことがあったけれど、それが鴎川邸で見たことのある葉をしていたからすぐに誰が変えたのか察しがついた。
 だが、しっかりと水揚げもされていたので、少しだけ窮屈そうな花たちを取り除き、私はそれを丁寧に管理した。

 沙久良さんにお花のことでお礼をメッセージで伝えたが、それは未だに既読にならない。そろそろ有明会の会合がある時期だけれど、その連絡もない。
 だけど、私は気にしないようにした。あまり連絡をしても迷惑だろうし、押しかけてもまた嫌味を言われてしまうだろう。

 季節が変わると、花屋に並ぶ花材のラインナップも変わってくる。
 私は今日、茎のしゅっとした青紫色の秋の花であるリンドウに、小花をつけたカスミソウを合わせて生けた。

「あら、秋らしいお花。今日も素敵ね」

 VIPフロアでお花を整えていると、今日もトキさんに声をかけられた。

「ありがとうございます。もう秋ですけどまだまだ暑いので、暑さにも冷房にも強いこのあたりのお花をと思って」

 そう告げると、トキさんはなぜか私の顔をじっと見つめる。

「あの、なにか……?」

 おろおろしていると、トキさんは急ににっこりと笑った。

「あなた、なんだか最近いい表情しているわね」

「え?」

 思わぬ指摘についそうこぼすと、トキさんはにこにこしたまま続ける。

「そのイヤリングもとっても素敵。旦那様からのプレゼント?」

「はい。美術館で見た絵画をモチーフにつくられたものだそうで」

 言いながら、耳元に触れる。すると、なんだか胸に温かいものが広がった。

「そう。愛されているのねえ」

 トキさんの言葉に、つい目を見張る。するとトキさんは、うふふと笑って去っていってしまった。

 愛されているはずなんてない。彼と私は政略結婚だ。彼が私と結婚したのは、彼がこの病院の次期院長になるためで、それ以上の意味なんてない。
 それに、愛なんてこの世界には存在しない――。

 そう思って生きてきたはずなのに、なぜか今、そう思うと胸がずきんと鈍く痛む。

 どうして、こんな気持ちになるのだろう。こんな感情を抱くのは、初めてだ。

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