愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?

7 絶望に見つけた『恋心』

 今日もお花をチェックしに、VIPフロアを訪れる。そんな私の頭の中を巡るのは、昨夜から今朝にかけてのことだった。

 昨日は瑞樹さんの帰りが、珍しくひどく遅かった。なにも聞いていなかったから起きて待っていようと思ったのだけれど、気がついたらダイニングテーブルに突っ伏して寝てしまっていた。
 朝起きたら毛布が肩にかかっていて、私は申し訳なさに肩を落とした。

 瑞樹さんはここ数日、なにかに悩んでいるようだった。

 女性らしさの足りない私のせいかもしれない。だから、顔を突き合わせるたびに優しく微笑んでくれる彼に、心咎めを覚えていた。

 今朝もいつも通り、彼は優しく微笑んで『行ってきます』と告げてくれた。私はずきんと心が痛むのを感じながら、彼を見送った。

 やはり、私の問題なのだろうか。聞きたいけれど、聞けない。またあの日のように拒絶されたらと思うと、怖くて話しかけられない。

 このままでいいわけがない。
 ついため息をこぼしてしまいそうになるが、それではダメだと自分を戒め、お花を水揚げして花器に生ける。
 エレベーターホールにそれを運んでいると、今日もトキさんが私を待っていた。

 お花の管理にVIPフロアを訪れると、ほぼ毎回トキさんと会う。
 今日の天気、なにが流行っているか、どんなお菓子がおいしいか。色々な話話で盛り上がるたび、トキさんの気さくな人柄に心がほぐれるのだ。

 だが、今日のトキさんはなんだか表情が暗かった。

「こんにちは」

 努めて明るく声をかける。だがトキさんの表情は晴れない。

「あなたの旦那様、なにか大きな手術をされたんじゃない?」

 瑞樹さんのことを聞かれるとは思っておらず、花器を台に置いた体がぴくりと反応してしまう。

「いえ、特に聞いておりません」

「そう。今日このフロアで見かけた時に、なんだか怖い顔していたの。あなたと一緒にいる時はとても優しい顔をしているから、ちょっと気になったのよ」

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