愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?

8 すべてを手に入れた『ヒーロー』

 瑞樹さんに気遣うように手を引かれ、建物を出た。
 目の前には、彼のクーペが止まっている。それで、心の奥底にあった緊張がやっと解けたような気がした

 瑞樹さんが、助手席の扉を開いてくれる。そこに乗り込むと、瑞樹さんも運転席に回る。
 だが彼はハンドルを握る前に、ポケットからなにかを取り出した。差し出されたのは、彼からもらった――私が今日家から着けてきたはずの、コバルトブルーのイヤリングだ。

 慌てて耳に触れると、右側の重みが消えている。

「入り口で君を待っていたが、いつまで経っても現れない。時間が時間だったから控室へ向かったら、これが落ちていたんだ」

 言いながら、彼は顔中に不快感を露わにした。

「君を探して奔走していたら、小玉先生の奥さんが申し訳なさそうに事の次第を教えてくれた。すべて、沙久良の仕業だ」

 瑞樹さんの言葉を聞きながら、受け取ったイヤリングを耳に戻す。ひんやりとした重みが戻ってくると、瑞樹さんは愛おしそうに、私の耳たぶにそっと指を滑らせた。

「うん、やはり万智によく似合う」

 彼は満足そうに微笑むと、ハンドルを握りしめた。そのまま、車は夜道を走り出す。

「あの、どこへ向かうのですか?」

「パーティー会場だ。今頃、鴎川は祝杯を挙げる準備でもしているだろうが……安心してくれ。こちらにも策はある」

 彼の言葉に、思わずごくりと唾をのんだ。そんな私に気づいたのか、瑞樹さんは膝にのせていた私の手に、そっと手を重ねてくれる。

 その熱に、私はもう迷わない、彼を信じるのだと心に決めた。

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