愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?

2 渦巻く思惑と複雑な『関係』

 光前寺総合病院にほど近い、由緒あるホテルの大広間。幾星霜を経た石造りの壁が、このホテルの歩んできた時間を物語っている。
 絢爛なシャンデリアが燦然と輝く中、私は瑞樹さんにエスコートされ赤い絨毯の敷かれた壇上にいた。

 これは、私と瑞樹さんの結婚記念パーティーだ。彼が〝次期院長候補に躍り出た〟とアピールするための。

 今日の瑞樹さんはダークネイビーのスリーピーススーツを着ている。上質なウールで織られた生地は光沢を放っており、サテン地の黒いリボンタイとゴールドに縁どられたブラックオニキスのカフスボタンが彼の装いを品よく引き締めている。

 一方の私はイエローベージュのドレス。花嫁らしい白に近い色だが、地味にならないように重厚感と光沢のあるミカドシルクをチョイスした。ノースリーブにハイネックのバックレスマーメイドはロング丈。髪はアップにして、後方で纏めている。合わせたアクセサリーは、大粒の真珠のイヤリングと、ゴールドの華奢なブレスレットだ。

 主役だけれど気張らない、それでいて品のある服装を選んだつもりだ。

「周知の通り、私の娘、万智はこの度、我が病院の望田瑞樹医師と(えにし)を結ぶ運びとなりました。彼という新たな力を迎え、光前寺病院がさらなる高みを目指すことを――」

 マイクを握るのは、威厳のある佇まいの父だ。静かな声で紹介され、私は丁寧に腰を折る。会場からまばらに拍手が聞こえたが、その空気はお祝いというムードではなく、なんとも重苦しいものだった。
 私と瑞樹さんの結婚は、歓迎されていない。それを、ひしひしと感じる。

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