愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
2・5 孤高の心臓外科医の『野望』
静かな夜の道を、静かにハイヤーが進む。結婚披露パーティーを終え、俺は万智とともに自宅へと戻っていた。
ちらりと隣の席を見ると、彼女は流れてゆく車窓の景色に目を向けていた。
会話はない。だが、彼女が身を包んでいるライトグリーンのドレスは似合っていると思う。咄嗟に選んだのがこれだったが、結果、よかった。
光前寺総合病院理事長の、箱入り娘。そう聞いた時は、きっと彼女も他の大企業の令嬢たちと同じ、都会のお嬢様なのだろうと思っていた。
しかし、ともに生活してみたら、彼女はわがままをひとつも言わない。家政婦は雇わず、日々の家事を淡々とこなしていた。俺の予定の把握も欠かさない。
それに加えて、先ほどのパーティーでのあの言動だ。彼女はすべきことをこなすだけの人ではなく、芯の強い女性だと思い知った。
誰からの挨拶も丁寧に交わす。先日の手術の内容も、万智は知識としてきちんと把握していたようだ。
副院長夫妻の嫌味な会話も丁寧に挨拶を交わしていたのには驚いた。俺はあの女から香る香水が不快だったが、彼女は嫌味のようなふたりの祝辞にも、冷静な笑みで対応していた。
父との会話では俺との微妙な距離を察したのか、申し訳なさそうに切り上げそれ以上は追及してこない。
一番感心したのは、ワインを被ってしまった後の彼女の対応だ。自分のドレスよりも、落とし主を労わる気遣い。誰にも嫌な思いをさせまいとした、スマートなふるまいだった。
遠い昔に参加させられた望田製薬のパーティーでは、こんな令嬢はいなかった。
この結婚は、俺が次期院長になるための足掛かりでしかない。だが、パートナーである彼女がしっかりしているのなら、それほど心強いものはない。
人として信頼できるなら、そのほうが絶対にいい。俺はなにがなんでも、次期院長の座を手に入れならなければならないのだから。
帰路を進むハイヤーの中で、自身の過去を振り返る――。
ちらりと隣の席を見ると、彼女は流れてゆく車窓の景色に目を向けていた。
会話はない。だが、彼女が身を包んでいるライトグリーンのドレスは似合っていると思う。咄嗟に選んだのがこれだったが、結果、よかった。
光前寺総合病院理事長の、箱入り娘。そう聞いた時は、きっと彼女も他の大企業の令嬢たちと同じ、都会のお嬢様なのだろうと思っていた。
しかし、ともに生活してみたら、彼女はわがままをひとつも言わない。家政婦は雇わず、日々の家事を淡々とこなしていた。俺の予定の把握も欠かさない。
それに加えて、先ほどのパーティーでのあの言動だ。彼女はすべきことをこなすだけの人ではなく、芯の強い女性だと思い知った。
誰からの挨拶も丁寧に交わす。先日の手術の内容も、万智は知識としてきちんと把握していたようだ。
副院長夫妻の嫌味な会話も丁寧に挨拶を交わしていたのには驚いた。俺はあの女から香る香水が不快だったが、彼女は嫌味のようなふたりの祝辞にも、冷静な笑みで対応していた。
父との会話では俺との微妙な距離を察したのか、申し訳なさそうに切り上げそれ以上は追及してこない。
一番感心したのは、ワインを被ってしまった後の彼女の対応だ。自分のドレスよりも、落とし主を労わる気遣い。誰にも嫌な思いをさせまいとした、スマートなふるまいだった。
遠い昔に参加させられた望田製薬のパーティーでは、こんな令嬢はいなかった。
この結婚は、俺が次期院長になるための足掛かりでしかない。だが、パートナーである彼女がしっかりしているのなら、それほど心強いものはない。
人として信頼できるなら、そのほうが絶対にいい。俺はなにがなんでも、次期院長の座を手に入れならなければならないのだから。
帰路を進むハイヤーの中で、自身の過去を振り返る――。