愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?

1 結婚という『仕事』

 午前七時。今日も会話のない朝食を済ませると、私の前に座っていた瑞樹さんはすぐに席を立った。

 広々としたリビングダイニングの窓の外は、どんよりとした空模様だ。幾重にも重なった灰色の雲が、低く垂れこめている。もうすぐ梅雨に入る、この時期らしい天気だ。

 私も見送りのために立ち上がり、廊下へ向かった。

 すでにスーツに着替えていた彼は、玄関の前ジャケットを羽織っていた。いつも通りの様子の瑞樹さんに、私は折り畳み傘を手渡す。

「今夜は雨がひどくなるそうです」

「そうか。明日まで響かないといいが」

 彼は淡々とそう言うと、黒の革靴に足を差し入れ玄関のノブに手をかけた。

 明日は結婚式だ。彼が天気の心配をしたのは、晴れたほうが段取りよく進むからで、きっとそれ以上の意味はない。

「いってらっしゃいませ」

 扉が開くと同時に、頭を下げる。

「婚姻届、頼んだぞ」

 私が頭を上げると、彼はそう言って扉の向こうへと一歩踏み出した。

「はい。証明書も、もらってきますね」

 私の答えを聞き届けたのかどうかわからないが、彼はそのまま行ってしまう。扉がパタンと音を立てて閉まり、私はほっと安堵の息をついた。

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