愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?

5 次期院長の妻という『適正』

 蝉たちが元気に鳴き響く、八月上旬。夏本番となった今日、私は朝から瑞樹さんのクーペに乗っていた。

『今度、ふたりで出かけよう』

 あの日、瑞樹さんに言われた〝お出かけ〟をするために今日、瑞樹さんが一日休みを取ってくれたのだ。瑞樹さんにはどうやら行きたい場所があるらしい。

 私は出かける前に光前寺総合病院に寄り、お花の様子だけチェックしたいと申し出ていた。だからまずは、病院に向かう。

 病院のお花の管理は、今はもう私の日課になっていた。
 朝、調子の悪いお花がないかを確認する。水を替え、必要であれば水揚げをし、次に生ける花をなににしようか考える。予定がない日は夕方も様子を見に来ることもある。

 だけど、今日は瑞樹さんが隣にいる。それだけで、なぜかやたらと緊張してしまう。

 静かな日曜日の病院。明かりが落ち、外からの光しか入らない正面入り口に生けた花材を見て、瑞樹さんが口を開いた。

「これは、なんという木だ?」

「アセビという枝ものです。入り口フロアは広いので、こういう大ぶりの枝でもいいかなと思いまして。外は連日暑いですけど、室内にグリーンがあると少し涼しい気がしませんか?」

 ヒペリカムは三週間ほどで実の根元が茶色く変色してきてしまった。
 夏はやはり、枝もののほうが花持ちがよい。ドウダンツツジは枯らしてしまったので、今回は花材にしても強く、葉がより濃い緑色で涼しげなアセビを選んだのだ。

 私の言葉に、瑞樹さんはじっとその葉を見つめる。
 しゃべりすぎてしまっただろうか。そう思うも、彼はすぐにふっと表情を緩めた。

「そうだな」

 その優しい笑みに、なんだか胸がほっとした。

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