悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~

▽アイリス・ガーランド

▽アイリス・ガーランド


 医務室の棚整理の途中で、腰に疲れを感じて大きく伸びをする。
 包帯、ガーゼ、薬液の入った瓶。
 何度も補充するうちに、どこに何があるのかすっかり覚えてしまった。

 医官は昼休憩で不在にしている。
 嬉しいことに、留守を預けられる程度には信頼されているらしい。
 女官教育とは別に、個人的に医術を学びにきていたおかげだろう。

 側室にも王妃にもなれない私は、いつかここを追い出されてしまう。
 その日のために、少しでも多くの知識を得ておきたかった。

 室内は静かで、誰の目もない空間にホッと肩の力が抜ける。
 棚整理を再開し、黙々と作業をしていると、控えめなノックが鳴った。
 招き入れていいものか躊躇している間に、細く扉が開く。

 「すみません、ガーゼを取り換えていただき――」

 顔を出したのはヴェロニカだった。
 頬に貼りついたガーゼには、まだわずかに血が滲んでいる。数日前の痛々しい傷口を嫌でも思い出してしまう。

 「たく、て……」

 彼女は私しかいないことに気づくと、ぎこちなく言葉を途切れさせた。

 「先生は今お昼に出られました。わたくしでよろしければ」

 苦笑しながら答えると、ヴェロニカは少しの逡巡のあとで、覚悟を決めたようにまっすぐ私を見た。

 「……じゃあ、あんたでいいわ」

 言い方は素っ気ないのに、椅子には素直に腰を下ろす。
 気取らず、飾らず、どこか子供っぽささえ感じる振る舞いだ。
 これが本来の彼女なのだろう。
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