名前を呼ぶまで、春は来ない
第17話 母の言葉
写真展初日、土曜日の朝。
私は何度も鏡の前に立った。服を着替えて、また脱いで、また着て。何を着ていけばいいのかわからなかった。
結局、白いシャツとジーンズという、いつも通りの格好に落ち着いた。
リビングに行くと、母が朝食の準備をしていた。
「おはよう。今日、写真展でしょ?」
「うん」
「お母さん、午後から行くわね」
「……来なくてもいいよ」
「行きたいの。澪の写真、ちゃんと見たいから」
母の言葉が、嬉しかった。
朝食を食べながら、母が聞いてきた。
「緊張してる?」
「……すごく」
「大丈夫よ。澪の写真、素敵だもの」
母は、優しく笑った。
「自信持って」
午前十時、ギャラリーが開館する。
私は、少し遅れて十一時頃に会場へ行くことにした。
開館と同時に行くのは、怖すぎた。
家を出る前、鏡をもう一度見る。
いつもの私。
でも、今日は少しだけ違う気がした。
ギャラリーに着くと、すでに何人かの来場者がいた。
受付で名前を告げると、「出展者ですね」と確認された。
会場に入る。
白い壁に並んだ、たくさんの写真。
その中に、私の写真もあった。
自分の写真の前に立つ。
雨に濡れた窓ガラス越しの街。
夕暮れの空と街灯。
誰もいない公園のベンチと、忘れ物の傘。
こうして展示されると、また違って見えた。
客観的に見ると、本当に寂しい写真だった。
しばらく自分の写真を見つめていると、隣に誰かが来た。
六十代くらいの女性だった。
「これ、あなたが撮ったの?」
突然話しかけられて、驚いた。
「……はい」
「素敵ね」
女性は、写真を見つめながら言った。
「特に、この傘の写真。何か、物語を感じるわ」
物語。
その言葉が、意外だった。
「どんな物語ですか?」
私が聞くと、女性は少し考えてから答えた。
「そうね……誰かが、ここにいたのよね。でも、もういない。傘だけが残されて」
女性は、私を見た。
「これ、あなた自身のことじゃない?」
その言葉に、息を呑んだ。
見抜かれている。
この写真が、私の心そのものだということを。
「……そうかもしれません」
「辛かったのね」
女性の声は、優しかった。
「でも、こうして写真にできたってことは、前を向こうとしてるってことよ」
前を向こうとしている。
朝倉くんも、同じことを言っていた。
「頑張ってね」
女性は、そう言って去っていった。
私は、その背中を見送った。
知らない人に、励まされた。
それが、不思議と嬉しかった。
午後二時頃、母が会場に来た。
「澪、いた」
母は、少し興奮した様子で近づいてきた。
「写真、見たわよ。すごく良かった」
「……ありがとう」
「特に、この窓ガラスの写真。綺麗だけど、切ない感じがする」
母は、写真を見つめながら言った。
「澪の心が、写ってるわね」
母も、わかっているのだ。
この写真が、私の心だということを。
「お母さん」
「ん?」
「私、ちゃんと前に進めてるかな」
その質問に、母は少し驚いたような顔をした。
そして、私の手を取った。
「澪はね、もう十分頑張ってるわ」
母の声は、優しかった。
「写真を撮り続けて、写真展に応募して、ここに立ってる。それだけで、すごいことよ」
「でも、私──」
「澪が思ってるほど、澪は弱くない」
母は、私の目を見た。
「中学の時のこと、まだ引きずってるでしょ?」
私は、頷いた。
母は、知っていたのだ。
私が、美咲のことをずっと後悔していることを。
「お母さんね、澪が毎晩泣いてるの、知ってたわ」
「……え?」
「中学の時も、高校に入ってからも。澪、夜中に泣いてたでしょ」
母は、悲しそうな顔をした。
「お母さん、何もしてあげられなくて、ごめんね」
涙が、溢れてきた。
母は、ずっと知っていた。
私の苦しみを。
でも、何も言わずに見守っていてくれた。
「お母さん、私──」
「いいのよ。澪が自分で乗り越えなきゃいけないことだから」
母は、私を抱きしめた。
「でも、一つだけ言わせて」
母は、私の肩に手を置いた。
「澪は、誰も裏切ってない」
「でも、美咲を──」
「中学生の澪が、どれだけ怖かったか。お母さんにはわかるわ」
母の目に、涙が浮かんでいた。
「声をかけられなかったことを、責めないで」
その言葉に、胸が締め付けられた。
母も、朝倉くんも、同じことを言ってくれる。
私を責めないで、と。
「でも──」
「澪」
母が、私の名前を呼んだ。
「もう、自分を責めるのはやめて」
母の言葉が、心に染みた。
自分を責めるのをやめる。
それが、できるだろうか。
「すぐには無理かもしれないけど」
母は、優しく笑った。
「少しずつ、前を向いていけばいいのよ」
その時、会場の入り口から誰かが入ってきた。
朝倉くんだった。
彼は、会場を見回して、私を見つけると手を振った。
「お母さん、あの子が──」
母が気づいた。
「朝倉くん?」
「……うん」
朝倉くんが、こちらへ歩いてきた。
「桜井さん、来てたんだ」
「うん」
彼は、母に気づいて、慌てて頭を下げた。
「初めまして。桜井さんの同級生の、朝倉です」
「初めまして。澪の母です」
母は、朝倉くんを見て、嬉しそうに笑った。
「朝倉くん、澪の写真、見に来てくれたの?」
「はい。桜井さんの写真、すごく楽しみにしてたので」
「そう。ありがとうね」
母は、私を見て、意味ありげに笑った。
「じゃあ、お母さんは先に帰るわね」
「え?」
「二人で、ゆっくり見てきなさい」
母は、そう言って会場を出て行った。
私と朝倉くんが、二人残された。
少し、気まずい沈黙が流れた。
「……母さん、なんか勘違いしてるかも」
「そうかな」
朝倉くんは、少し照れくさそうに笑った。
「でも、いいお母さんだね」
「……うん」
二人で、私の写真の前に立った。
朝倉くんは、一枚一枚じっくり見ていた。
「やっぱり、いい写真だ」
彼が、小さく呟いた。
「桜井さんの『声』が、ちゃんと聞こえる」
「……どんな声?」
「寂しいけど、諦めてない声」
朝倉くんは、私を見た。
「孤独だけど、まだ希望を探してる声」
その言葉が、胸に響いた。
私は、まだ希望を探しているのか。
自分では、よくわからなかった。
でも、朝倉くんにはそう見えるらしい。
「桜井さん」
朝倉くんが、真剣な顔で言った。
「俺、やっぱり桜井さんと距離を置きたくない」
「朝倉くん──」
「桜井さんが決めたことだから、尊重しようと思った。でも、無理だった」
彼の目は、真っ直ぐだった。
「桜井さんのそばにいたい。一緒に写真を撮りたい。一緒に笑いたい」
涙が、溢れてきた。
朝倉くんは、諦めていなかった。
私を、諦めていなかった。
「でも、私——」
「桜井さんが怖いのは、わかってる。また誰かを傷つけるんじゃないかって」
朝倉くんは、私の手を取った。
「でも、俺は大丈夫。桜井さんになら、傷つけられてもいい」
その言葉に、心が震えた。
傷つけられてもいい。
そんなこと、言ってくれる人がいるなんて。
「朝倉くん、ありがとう」
私は、涙を拭いた。
「でも、もう少し時間をちょうだい」
「……わかった」
朝倉くんは、少し寂しそうに笑った。
「待ってる。ずっと」
その日の夕方、家に帰ると、母がリビングで待っていた。
「おかえり。朝倉くんとは、どうだった?」
「……いい人だよ」
「そうね。お母さんにもわかったわ」
母は、お茶を淹れながら言った。
「澪のこと、大切に思ってくれてるのね」
「……うん」
母は、私の隣に座った。
「澪、もう一度聞くわ」
「何?」
「朝倉くんのこと、好き?」
その質問に、心臓が跳ねた。
「……わかんない」
「わかんない?」
「好きって、どういう感じなのかわかんない」
母は、少し考えてから言った。
「その人と一緒にいたいって思う?」
「……思う」
「その人の笑顔が見たいって思う?」
「思う」
「その人が悲しんでたら、自分も悲しくなる?」
「……なる」
母は、優しく笑った。
「それが、好きってことよ」
好き。
私は、朝倉くんのことが好きなのか。
そう考えると、胸が熱くなった。
「でも、お母さん」
「ん?」
「私、まだ怖い」
「怖い?」
「好きになって、また傷つけちゃうんじゃないかって」
母は、私の頭を撫でた。
「澪はね、優しすぎるのよ」
「……え?」
「人を傷つけるのが怖くて、自分を傷つけてる」
母の言葉が、胸に刺さった。
「でもね、人を好きになるって、そういうリスクも込みなのよ」
「傷つけるかもしれない。傷つけられるかもしれない。でも、それでも一緒にいたいって思う」
母は、私の目を見た。
「それが、愛するってことなのよ」
愛する。
その言葉が、重かった。
でも、同時に──温かかった。
その夜、ベッドに横になりながら考えた。
朝倉くんのこと。
母の言葉。
写真展での出会い。
全部が、私の心を少しずつ溶かしていく。
スマホに、朝倉くんからメッセージが来た。
『今日はありがとう。桜井さんの写真、やっぱり最高だったよ』
私は、返信した。
『来てくれて、ありがとう』
送信してから、もう一通送った。
『朝倉くんの言葉、嬉しかった』
すぐに返事が来た。
『俺も、桜井さんと話せて嬉しかった。また明日ね』
また明日。
その言葉が、心地よかった。
明日も、朝倉くんに会える。
それだけで、少しだけ──。
前を向ける気がした。
私は何度も鏡の前に立った。服を着替えて、また脱いで、また着て。何を着ていけばいいのかわからなかった。
結局、白いシャツとジーンズという、いつも通りの格好に落ち着いた。
リビングに行くと、母が朝食の準備をしていた。
「おはよう。今日、写真展でしょ?」
「うん」
「お母さん、午後から行くわね」
「……来なくてもいいよ」
「行きたいの。澪の写真、ちゃんと見たいから」
母の言葉が、嬉しかった。
朝食を食べながら、母が聞いてきた。
「緊張してる?」
「……すごく」
「大丈夫よ。澪の写真、素敵だもの」
母は、優しく笑った。
「自信持って」
午前十時、ギャラリーが開館する。
私は、少し遅れて十一時頃に会場へ行くことにした。
開館と同時に行くのは、怖すぎた。
家を出る前、鏡をもう一度見る。
いつもの私。
でも、今日は少しだけ違う気がした。
ギャラリーに着くと、すでに何人かの来場者がいた。
受付で名前を告げると、「出展者ですね」と確認された。
会場に入る。
白い壁に並んだ、たくさんの写真。
その中に、私の写真もあった。
自分の写真の前に立つ。
雨に濡れた窓ガラス越しの街。
夕暮れの空と街灯。
誰もいない公園のベンチと、忘れ物の傘。
こうして展示されると、また違って見えた。
客観的に見ると、本当に寂しい写真だった。
しばらく自分の写真を見つめていると、隣に誰かが来た。
六十代くらいの女性だった。
「これ、あなたが撮ったの?」
突然話しかけられて、驚いた。
「……はい」
「素敵ね」
女性は、写真を見つめながら言った。
「特に、この傘の写真。何か、物語を感じるわ」
物語。
その言葉が、意外だった。
「どんな物語ですか?」
私が聞くと、女性は少し考えてから答えた。
「そうね……誰かが、ここにいたのよね。でも、もういない。傘だけが残されて」
女性は、私を見た。
「これ、あなた自身のことじゃない?」
その言葉に、息を呑んだ。
見抜かれている。
この写真が、私の心そのものだということを。
「……そうかもしれません」
「辛かったのね」
女性の声は、優しかった。
「でも、こうして写真にできたってことは、前を向こうとしてるってことよ」
前を向こうとしている。
朝倉くんも、同じことを言っていた。
「頑張ってね」
女性は、そう言って去っていった。
私は、その背中を見送った。
知らない人に、励まされた。
それが、不思議と嬉しかった。
午後二時頃、母が会場に来た。
「澪、いた」
母は、少し興奮した様子で近づいてきた。
「写真、見たわよ。すごく良かった」
「……ありがとう」
「特に、この窓ガラスの写真。綺麗だけど、切ない感じがする」
母は、写真を見つめながら言った。
「澪の心が、写ってるわね」
母も、わかっているのだ。
この写真が、私の心だということを。
「お母さん」
「ん?」
「私、ちゃんと前に進めてるかな」
その質問に、母は少し驚いたような顔をした。
そして、私の手を取った。
「澪はね、もう十分頑張ってるわ」
母の声は、優しかった。
「写真を撮り続けて、写真展に応募して、ここに立ってる。それだけで、すごいことよ」
「でも、私──」
「澪が思ってるほど、澪は弱くない」
母は、私の目を見た。
「中学の時のこと、まだ引きずってるでしょ?」
私は、頷いた。
母は、知っていたのだ。
私が、美咲のことをずっと後悔していることを。
「お母さんね、澪が毎晩泣いてるの、知ってたわ」
「……え?」
「中学の時も、高校に入ってからも。澪、夜中に泣いてたでしょ」
母は、悲しそうな顔をした。
「お母さん、何もしてあげられなくて、ごめんね」
涙が、溢れてきた。
母は、ずっと知っていた。
私の苦しみを。
でも、何も言わずに見守っていてくれた。
「お母さん、私──」
「いいのよ。澪が自分で乗り越えなきゃいけないことだから」
母は、私を抱きしめた。
「でも、一つだけ言わせて」
母は、私の肩に手を置いた。
「澪は、誰も裏切ってない」
「でも、美咲を──」
「中学生の澪が、どれだけ怖かったか。お母さんにはわかるわ」
母の目に、涙が浮かんでいた。
「声をかけられなかったことを、責めないで」
その言葉に、胸が締め付けられた。
母も、朝倉くんも、同じことを言ってくれる。
私を責めないで、と。
「でも──」
「澪」
母が、私の名前を呼んだ。
「もう、自分を責めるのはやめて」
母の言葉が、心に染みた。
自分を責めるのをやめる。
それが、できるだろうか。
「すぐには無理かもしれないけど」
母は、優しく笑った。
「少しずつ、前を向いていけばいいのよ」
その時、会場の入り口から誰かが入ってきた。
朝倉くんだった。
彼は、会場を見回して、私を見つけると手を振った。
「お母さん、あの子が──」
母が気づいた。
「朝倉くん?」
「……うん」
朝倉くんが、こちらへ歩いてきた。
「桜井さん、来てたんだ」
「うん」
彼は、母に気づいて、慌てて頭を下げた。
「初めまして。桜井さんの同級生の、朝倉です」
「初めまして。澪の母です」
母は、朝倉くんを見て、嬉しそうに笑った。
「朝倉くん、澪の写真、見に来てくれたの?」
「はい。桜井さんの写真、すごく楽しみにしてたので」
「そう。ありがとうね」
母は、私を見て、意味ありげに笑った。
「じゃあ、お母さんは先に帰るわね」
「え?」
「二人で、ゆっくり見てきなさい」
母は、そう言って会場を出て行った。
私と朝倉くんが、二人残された。
少し、気まずい沈黙が流れた。
「……母さん、なんか勘違いしてるかも」
「そうかな」
朝倉くんは、少し照れくさそうに笑った。
「でも、いいお母さんだね」
「……うん」
二人で、私の写真の前に立った。
朝倉くんは、一枚一枚じっくり見ていた。
「やっぱり、いい写真だ」
彼が、小さく呟いた。
「桜井さんの『声』が、ちゃんと聞こえる」
「……どんな声?」
「寂しいけど、諦めてない声」
朝倉くんは、私を見た。
「孤独だけど、まだ希望を探してる声」
その言葉が、胸に響いた。
私は、まだ希望を探しているのか。
自分では、よくわからなかった。
でも、朝倉くんにはそう見えるらしい。
「桜井さん」
朝倉くんが、真剣な顔で言った。
「俺、やっぱり桜井さんと距離を置きたくない」
「朝倉くん──」
「桜井さんが決めたことだから、尊重しようと思った。でも、無理だった」
彼の目は、真っ直ぐだった。
「桜井さんのそばにいたい。一緒に写真を撮りたい。一緒に笑いたい」
涙が、溢れてきた。
朝倉くんは、諦めていなかった。
私を、諦めていなかった。
「でも、私——」
「桜井さんが怖いのは、わかってる。また誰かを傷つけるんじゃないかって」
朝倉くんは、私の手を取った。
「でも、俺は大丈夫。桜井さんになら、傷つけられてもいい」
その言葉に、心が震えた。
傷つけられてもいい。
そんなこと、言ってくれる人がいるなんて。
「朝倉くん、ありがとう」
私は、涙を拭いた。
「でも、もう少し時間をちょうだい」
「……わかった」
朝倉くんは、少し寂しそうに笑った。
「待ってる。ずっと」
その日の夕方、家に帰ると、母がリビングで待っていた。
「おかえり。朝倉くんとは、どうだった?」
「……いい人だよ」
「そうね。お母さんにもわかったわ」
母は、お茶を淹れながら言った。
「澪のこと、大切に思ってくれてるのね」
「……うん」
母は、私の隣に座った。
「澪、もう一度聞くわ」
「何?」
「朝倉くんのこと、好き?」
その質問に、心臓が跳ねた。
「……わかんない」
「わかんない?」
「好きって、どういう感じなのかわかんない」
母は、少し考えてから言った。
「その人と一緒にいたいって思う?」
「……思う」
「その人の笑顔が見たいって思う?」
「思う」
「その人が悲しんでたら、自分も悲しくなる?」
「……なる」
母は、優しく笑った。
「それが、好きってことよ」
好き。
私は、朝倉くんのことが好きなのか。
そう考えると、胸が熱くなった。
「でも、お母さん」
「ん?」
「私、まだ怖い」
「怖い?」
「好きになって、また傷つけちゃうんじゃないかって」
母は、私の頭を撫でた。
「澪はね、優しすぎるのよ」
「……え?」
「人を傷つけるのが怖くて、自分を傷つけてる」
母の言葉が、胸に刺さった。
「でもね、人を好きになるって、そういうリスクも込みなのよ」
「傷つけるかもしれない。傷つけられるかもしれない。でも、それでも一緒にいたいって思う」
母は、私の目を見た。
「それが、愛するってことなのよ」
愛する。
その言葉が、重かった。
でも、同時に──温かかった。
その夜、ベッドに横になりながら考えた。
朝倉くんのこと。
母の言葉。
写真展での出会い。
全部が、私の心を少しずつ溶かしていく。
スマホに、朝倉くんからメッセージが来た。
『今日はありがとう。桜井さんの写真、やっぱり最高だったよ』
私は、返信した。
『来てくれて、ありがとう』
送信してから、もう一通送った。
『朝倉くんの言葉、嬉しかった』
すぐに返事が来た。
『俺も、桜井さんと話せて嬉しかった。また明日ね』
また明日。
その言葉が、心地よかった。
明日も、朝倉くんに会える。
それだけで、少しだけ──。
前を向ける気がした。