妊娠しましたが相手に婚約者がいました。今更私が本命? ご冗談を。

21.23年前の決意

時を遡ること、二十三年前。

冬の光が薄く差し込む座敷で、五歳の真夏は息を潜めていた。
障子の向こうから、冬城組幹部たちの低い声が、まるで井戸の底から聞こえるようにくぐもって届く。

「あの子は、源次郎さんの実子じゃねえ。渚さんの連れてきた子だ」
その一言が、ゆっくりと、しかし容赦なく真夏の胸に沈んだ。
自分は冬城源次郎の子ではない。

そして、身勝手に連れてこられただけの存在。
胸の奥で、何かがぶちりと切れた。

冬城家の冷たい廊下を走って逃げ出す。床板の軋む音が、追いかけてくる怯えの足音のように聞こえた。
座敷を抜け、庭へ、さらに裏手の倉庫の前でくずれ落ちる。
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