傷ついた王子は森の魔女に癒される

29 最期の挨拶

(リリアナは、僕が嫌になって追い出したわけではなかったのか?)

 泣きじゃくるリリアナの独り言に、ファリエルは息が止まるほどの衝撃を受けた。一気に鼓動が速くなる。
 壁に背を付けて、そっと様子をうかがう。
 寂しがる様子と不似合いな巨大キャベツ。きっと、ふたりの思い出が詰まったもののひとつとして、すがりつかずにはいられなかったのだろう。

 ファリエルが出ていくタイミングを失っている一方で、リリアナの独白が続く。

「私もコーデリアさんみたいに、自分に魔法を掛けてずっと眠り続ければ、いつかは忘れられるのかな……」
「――!」

 リリアナが、僕を忘れる?
 僕はこれからリリアナを忘れてしまうけれど、リリアナに忘れられるのは嫌だ――!
 強い衝動に突き動かされて、気づけばファリエルはリリアナの前に飛び出していた。

 途端にリリアナがばっと振り向く。潤んだアクアブルーの目を見開く。

「ファリエルさん!? 戻ってきてくださったんですか!?」
「……。君は……?」


 いきなり状況が把握できなくなった。


 この子は一体誰なんだ? 僕は一体なぜこんなところに――。


 目の前にいる(・・・・・・)女性(・・)の姿が心をすり抜けていく。
 ファリエルはその場に立ち尽くし、何度もまばたきした。
 なぜこの子は僕のことを(・・・・・)知っているんだ(・・・・・・・)


「あの、ファリエルさん。……どうかされましたか……?」

 黒いローブをまとった女性が畑の中で立ち上がる。
 異様な大きさのキャベツ。あれは本物なのか? 現実の光景とは思えない。
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