傷ついた王子は森の魔女に癒される

23 さまよえる孤独の王子

 ファリエルは日が暮れてもずっと立ち止まることなく、とぼとぼと暗い森をさまよっていた。

 ふと夜風に誘われて、空を仰ぐ。
 うっそうと生い茂る木々の隙間から星空が見えた。
 きらめく砂をまぶしたかのような、無数のきらめき。

「そういえば、リリアナと一緒に夜空を見上げたことはなかったな。一度くらいしておけばよかった」

 乾いたつぶやきが、木々のざわめきに掻き消されていく。
 星々の輝きは美しかった。その美しさも今は無数の棘と化し、胸に痛みを走らせる。

 ひとりきりになって改めて気づく。
 もう、この気持ちは。彼女を想う心は――彼女と出会う前には戻せない。
 彼女と共に生きていけないのなら、僕に生きる理由などない。

 この無限に続くかのような苦しみから一刻も早く逃れたい。
 でも、せっかく救ってもらった命をいたずらに散らしたくはない。
 相反するふたつの気持ちが胸の中でせめぎ合う。


 森を行くうちに、自分以外の足音が微かに聞こえてきた。続けてうなり声。
 野生の獣か、それとも――。
 反射的に剣の柄に手をやりながら音の方へと目を向ける。するとそこには血のように赤い目が光っていた。月明かりの作り出す陰に紛れているせいで、相手がどの程度の大きさかは判別がつかない。
 ほとんど足音もなく、徐々に距離を詰めてくる。

「魔獣、か……」

 目を凝らして全体像を把握した瞬間。
 全身の血が一気に凍りついた。

 今までに見たことのある魔獣とは比べものにならないほどの巨躯。
 熊にも狼にも見える奇妙なそれは、地面に這いつくばり夜闇に牙を光らせていた。
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