傷ついた王子は森の魔女に癒される

26 記憶を消す薬(後編)

 背筋をぴんと伸ばした精霊が、なにかに集中するように目を閉じる。
 小さな身体から光の粒が立ちのぼり、床に広がっていき――。


 目覚めたまま夢を見ているかのような、半透明の人の姿が室内に描き出された。
 黒いローブ姿の少女が床に座り込み、祈りの形に手を組んでいる。それはファリエルが会いに行った頃と同じ、幼いリリアナだった。
 目を閉じたまま、なにかをつぶやいている。

 なんと言っているのだろう。ファリエルが幻影を凝視しながら耳を澄ますと、思いもよらない言葉が聞こえてきた。


 ――どうかあの王子様が、幸せになりますように。


「……!」

 ファリエルが驚きに目を見開いた次の瞬間、リリアナの姿が成長していた。今度は十四、五歳といったところだろうか。同じく膝を突き、同じ祈りを繰り返す。
 祈るリリアナの幻は少しずつ成長していき――しまいには、ファリエルと出会ったときと同じくらいの見た目になっていた。


 ふっと幻影が消え去った瞬間、頭の中に声が聞こえてきた。
 少年のような澄み切った声が語り始める。

 ――君が今、生きているのは、幾重にも積み重なった彼女の祈りが奇跡を起こしたから。

 不可解な現象に驚いて顔を上げると、精霊がファリエルを見つめていた。
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