傷ついた王子は森の魔女に癒される

28 君を想いながら歩く夜の森

 夜の森の木々が青白い光に照らされている。
 フクロウや虫の鳴き声に、土や枯葉を踏む足音が重なる。
 ひんやりとした空気を吸い込み、静かに吐き出す。優しい夜風が、歩き続けて火照った身体を冷ましていった。

 ファリエルは、宙に浮いたガラス玉に導かれるままに森の中を歩いていた。
 これから自分を殺そうとしている魔女の気遣いに、感謝と不可解さの入り混じった気持ちが湧いてくる。
 ただ、この青い炎の意味を思い出せば、たちまち心が締めつけられた。

『この炎が消えたら、薬の効果が発動するから』――。

 コーデリアの言葉を思い出す。
 今はまだ炎の勢いはあるものの、いずれ小さくなっていき、最後は完全に消え去るらしい。『少なくともリリアナの家に着くまでは持つ』と説明されたが気持ちは焦るばかりだった。


 リリアナ。早く君に会いたい。僕が君を忘れてしまう前に。
 

 急ぎ足になれば、青く輝くガラス玉が慌てた風に前に回り込む。
 生き物じみた挙動に和まされて、ほんの少しだけ口元がゆるんだ。

 その瞬間。

 かさっ、と正体不明の足音が聞こえてきた。
 立ち止まり、辺りを見回す。耳を澄ます。
 すると、ガラス玉が背後に回り込んだ。
 釣られて振り向く。青い光に照らされた先には魔獣が佇んでいた。

 戦っている暇などないのに――!
< 98 / 117 >

この作品をシェア

pagetop