愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
初めての手料理
ホワイトデーの日に遼河さんのご両親への挨拶を済ませ、それから二週間後に婚姻届の提出。
並行して引っ越しやそれに伴う手続きを進めていたので、三月下旬から四月上旬はとても慌ただしかった。ゆっくり桜を見た記憶もない。
さらに新年度を迎えた会社では、入社式やオリエンテーション、辞令関係の手続きも多く、人事部の仕事は大忙し。
ようやくそれが落ち着いてきた四月二週目の金曜、結婚報告も兼ねて会社帰りに琉美と焼肉を食べに行った。
私と遼河さんが結婚した事実は一部を除いて極秘だし、そうでなくても遼河さんの名前は世間に知れている。心置きなく会話ができるよう、個室を予約していた。
「おめでとう。でも氷室小雪って、めっちゃ寒そうな名前だね」
予約した個室の網の上で肉をひっくり返しながら、琉美がクスクス笑っている。
氷室自動車グループの上層部に渦巻く陰謀など、深い事情はもちろん伏せているけれど、以前も琉美には契約結婚のことを相談していたので、この結婚に愛がないことは知っている。
しかし、私が勇気を出して新しい環境に飛び込んだのは成長だとか、契約だろうとなんだろうとあの氷室社長の妻の座を射止めたのは偉業だとか、とにかくポジティブに受け止めてくれているようだ。