空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
絶望の再来
何も変わらない日々が続く中、その日、仄香が帰宅したのは夜の影がリビングの隙間に差し込む頃だった。数時間の残業を終え、疲れた体を引きずるように玄関の鍵を静かに回す。
家の中は、いつもと変わらず重苦しい。空気は冷たく、どこか澱んでいる。
「ただいま……」
小さく呟いた声は、誰にも届くことなく空気に溶けていく。
バッグを肩から下ろし、台所へ向かいながら着古したジャケットを静かに脱いで腕に掛ける。
母は今日も自室から出てくる気配がない。一日中家にいるはずだが家事をする様子もなく、いつものように部屋に籠ったままだ。ただ小言を言われるよりは、その方がまだましだと仄香は思う。
そのままベランダに出て、朝のうちに干していた洗濯物を取り込む。布の擦れる音さえ立てないよう気を配りながら、一枚ずつ丁寧に畳んでいった。
やがて台所に立ち、手際よく夕食の準備を始める。包丁の刻む音やフライパンで油が弾ける音を聞きつつ時折鍋の味噌汁をかき混ぜ、仄香はできるだけ意識を空にしていく。
食事の支度を終え、テーブルに器を並べ始めたそのとき、玄関のドアが勢いよく開いた。
家の静けさを乱すその音は、姉の帰宅を告げていた。