空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
温かな場所
家を出た瞬間に訪れたあまりの静寂に、仄香は耳の奥がツンとするような錯覚を覚えた。
拓翔の引かれる手に導かれるまま、マンションの廊下を歩く。エントランスを抜けて夜の冷たい空気が頬を撫でたとき、ようやく夢ではないと気付かされる。
質素なエプロン姿のまま後ろをついていくと、拓翔が通りに停まっていたタクシーのドアを開いた。
「乗って」
あまりに迷いのない流れについていけず、仄香は思わず足を止めた。
「え……あの、どこへ行くの?」
不安げに問いかけると、拓翔と視線がぶつかる。そこには、どこか懐かしい温かさがあった。
「俺の家」
「え……」
「話したいことは山ほどある。でもまずは、落ち着いて話せる場所に行こう」
差し出された手のひらは、かつて指輪を渡してくれたときよりもずっと大きく、逞しくなっていた。促されるまま後部座席の奥へと身を滑り込ませると、続いて乗り込んだ拓翔が運転手に行き先を告げる。
タクシーが動き出してからも、仄香は落ち着かなかった。
すぐ隣に感じる体温に、膝の上でぎゅっと拳を握りしめる。
ずっと会いたくてたまらなかった人の隣にいる。それなのに、まだどこか夢の中にいるようで、視線をどこへ向ければいいのかも分からない。