10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
第6話:忘れたくない、忘れてしまったこと



「白石さん、なんか雰囲気変わりました?」


その一言に、一瞬呼吸を忘れたみたいに固まってしまった。

社長と同居しはじめてから、気づけばもう二カ月が経っていて、その間に少しずつ、自分でもわからないくらいゆっくりと何かが変わっていたのかもしれないけれど、それを他人に、しかもこんなにあっさり言い当てられるなんて思ってもいなかったから、余計に動揺してしまったのだと思う。


美織ちゃんにランチに行きましょうと誘われて、なんとなく流れでついてきたのは会社の近くにあるイタリアンのお店で、平日のお昼時らしく賑わっている店内の中で、私たちは向かい合って座っていた。

美織ちゃんは慣れた手つきでフォークにパスタをくるくると巻きつけながら、それを口に運ぶこともせずに、じっと私の顔を見つめてくる。


その顔、苦手なんだよなぁ。美織ちゃんのあの、全部見透かしているみたいな、確信に迫る目!

あれに見つめられると、どんなに隠しているつもりでも、結局は全部白状させられてしまう気がしてしまう。


実際、前だってそうだった。

翔――いや、佐藤さんとの関係についてだって、ただの元同僚だとごまかし続けるつもりだったのに、あの目にじっと見つめられて、気づけば元婚約者だったことを打ち明けてしまっていたのだから。

そして今もまた、その視線が私を逃がしてくれない。

社長との同居については、絶対に気づかれないように、一ミリだって匂わせるような言動はしていないはずなのに、「それで?社長とは本当になんでもないんですか?」なんて、まるで核心に触れるようなことをさらっと言ってくるあたり、本当に侮れない。


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