10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
第7話:そんなこと言われたら、私は
月末の締め直前。
毎回初めてみたいに焦りがこみ上げてきて、さっきからずっと何かが噛み合っていない違和感が胸の奥に引っかかって離れない。気づけば同じ画面を何度も見返していて、それでも答えが出ないまま時間だけがじりじりと削れていく。
パソコンの前に座りっぱなしのせいで目の奥はじんわりと痛くて肩も重い。
そんな中でふいに隣から聞こえた声は、いつもよりわずかに低くて、それだけで嫌な予感が背中をなぞるように走った。
「すみません……私のせいかもしれません」
「どこ?」
余計な言葉を挟む余裕なんてなかった。開きっぱなしの試算表に視線を戻したまま、美織ちゃんの動きを横目で追う。彼女が椅子を引いて立ち上がる気配、そして私のパソコンの画面へと伸びてくる指先。
その先にあるのは旅費交通費の部門別集計、数字の列の中にひとつだけ異様に浮いた数字があって、それを見た瞬間、胃のあたりがすっと冷えていくのが分かった。
あ、これ…そう思った時にはもう遅くて、原因に気づいた自分の中で静かに警報が鳴り始める。
「……部門コード、間違えました。すみません、確認ちゃんとできてなくて……」
謝罪の言葉が続くけれど、私はそれを最後まで聞く前にマウスを握り直していた。クリックして仕訳を開く、連動している明細が一気に画面に並び、その一つ一つが嫌になるくらい整然と「間違い」を主張している。
単純な入力ミス、それだけのはずなのに。今じゃなければただの修正で終わるのに、今は月次締め直前、タイミングが最悪すぎる。