10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
第8話:知らない、知りたい、あなたのこと



社長が出張に行って、3日目の昼。
久しぶりに自分で作ったお弁当をデスクで広げながら、ぼんやりとスマホの画面を眺めていた。画面に映る文字も画像も、ほとんど頭に入ってこない。意識はずっと別のところにあった。

社長は、今日の夜には帰ってくる。たった3日。たったそれだけのはずなのに、あの家は驚くほど静かで、驚くほど寂しかった。最初の夜は少しだけホッとした自分もいたのに、2日目、3日目と時間が過ぎるほどに、その静けさがやけに胸に響くようになっていった。

何をしていても、ふとした瞬間に思ってしまう。会いたい、って。
社長と少し距離を置けば、仕事に集中できるかもしれない。そう思っていたのに、全然そんなことはなかった。

あの月末みたいな大きなミスはしていない。でも、どこかずっと頭がぼんやりしていて、細かいところで意識が散っている感覚がある。気を抜いているわけじゃないのに、何かが足りない。

結局、近くにいても、離れていても変わらないんだと思い知らされる。どこにいても、何をしていても、社長のことを考えてしまう。
会いたいと思うのに、同時に会うのが怖い。あの日、あんな終わり方をしてしまったから。行ってらっしゃいの一言さえ言えなかった。せっかくご飯を作って待っていてくれたのに、「一人にしてほしい」なんて、あんな冷たいことを言ってしまった。

最低だ。顔を見たいのに、見たくない。会ったらきっと、また何も言えなくなる。もしくは、全部こぼれてしまう。社長のことも、仕事のことも、そして——。


「白石さん、最近井口さん見ませんね~?」


いつもの調子で、椅子をスーッと滑らせながら美織ちゃんが隣にやってくる。その一言に、心臓がドクンと大きく跳ねた。


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