異世界に来て10年、伝えられないままの片想い

第22章 やっと手に入れた私の居場所——ここにいていいと言われた日

目を開けて、しばらくぼんやりとしていた。

温かなものが、私の体を横切るように触れている。

目の前には、誰かの寝着が見えた。

――え。

そこで、はっと顔を上げる。

すぐ目の前に、バルスの寝顔があった。

私は彼の腕の中にいて、その寝着をしっかりと掴んでいた。

そして、一気に昨日のことを思い出す。

うぅ……恥ずかしい。

甘え過ぎでしょ、私。

もぞもぞと腕の中から抜け出そうとすると、その気配に気づいたのか、バルスがすぐに目を覚ました。

少しだけぼんやりした目で私を見つめ、それから目を細める。

「顔、赤いぞ」

そう言って、私の頬に手を添え、そのままやさしく撫でてくれる。

その温かさに触れた瞬間、また顔が熱くなる。

「あの、ごめんなさい。昨日も仕事で遅かったのに、その……つい……あ、私、家に連絡……!」

飛び起きようとしたところを、バルスの腕が引き留めた。

「オレが連絡しておいた。ミドリを早いうちに伴侶にもらうからと」

「……あ」

嬉しさと恥ずかしさで、さらに顔が熱くなる。

それでも、にやけるのを止められなかった。

嬉しい。

嬉しい、嬉しい、嬉しい。

思わず、またバルスに抱きつく。

この腕の中に、いていいんだ。

もう、ここにいていいんだ。

「あと1か月もすれば仕事も少しは落ち着く。慌ただしくはなるが、再来月までには婚姻式を済ませたい。できるだけ早く、一緒に暮らしたいと思っている」

「再来月?」

「再来月だ。それとも、もう少し遅らせた方がいいか?」

私の顔をうかがうように見つめるその目に、私は慌てて首を横に振った。

「ううん、ううん。それでいい。それがいい」

バルスは少し目を細め、それからまた、ぎゅっと抱きしめてくれる。

そのまましばらくして、彼が小さく息を吐いた。

「ずっとこうしていたいが、仕事に行かないとな」

思わず、ふふっと笑ってしまう。

何に対しても真面目で、きっちりしているバルスの口から、そんな言葉が出るなんて思っていなかった。

でも、何より嬉しかったのは、私と同じ気持ちでいてくれたことだった。

「私も同じで嬉しいなって」

「そうか」

バルスもわずかに笑って、私を抱き留めていた腕を離し、先にベッドから起き上がる。

私も身体を起こしながら、ずっと言わなくてはいけないと思っていたことを、思い切って口にした。

「あの、私、頑張るから。バルスが安心して仕事ができるように。だから……バルスも、私のところに戻ってくるために、できるだけ頑張ってほしいなって」

バルスは少し驚いたように私を見つめたあと、私の頬に手を添える。

「必ず、とは言わないのだな」

私はその手に自分の両手を重ねて、そっと頬を寄せた。

「言いません。だって、それは……分かってるから。でも、また勝手に私から離れたら、ここで嫌がるぐらい泣きますから」

「それは大変だな」

バルスは小さく笑ってから、

「努力する。約束だ」

そう言って、額を軽く合わせてくる。

どうしよう。

幸せ過ぎて、また甘えたくなる。

思わず身を寄せると、バルスが背中をあやすようにぽんぽんと撫でてくれた。

「明日から1週間ほど家を空ける。また、留守を頼めるか?」

「うん、はい。あの……また、たくさんここに来ていい?」

そう聞くと、バルスは苦笑して、私の頬を軽く引っ張る。

「お前はオレの伴侶になるんだろう。いずれは妻としてここにいてもらわないと困る」

「……そっか、そうですね」

くすぐったくて、少し笑ってしまう。

それからバルスは、少しだけ申し訳なさそうに私を見る。

「準備もいろいろあるだろうが、あまり付き合ってやれないかもしれない」

「うん、大丈夫。それに、大体はもう揃ってるし」

「そうか」

そこで一度言葉を切ったあと、バルスが少しだけ意地悪そうに笑った。

「このベッドも、無駄にならずに済んだな」

私は真っ赤になったまま、なんと返していいのか分からず固まる。

そんな私を見て、バルスはおかしそうに笑いながら立ち上がった。

「今日は家に帰ってくるの?」

「あぁ。少し遅くなるが、それでよければ夜は一緒に食べるか?」

「うん、はい」

「じゃあ、8時頃に食事亭で」

いつもの落ち着いた声でそう言われて、私は何度も頷いた。

「うん」

それだけ返して、また頷く。

――もう、終わらせなくていい。

この世界に来てから、ずっとどこかで分かっていた。

もう日本には帰れない。家族にも、会えない。

分かっているのに、それでも私は、ずっと探していたのだと思う。

自分がいていい場所を。ひとりじゃないと思える場所を。

バルスの隣にいるときだけは、そんなことを考えなくて済んだ。

その温もりに触れている間だけ、そう思えていた。

そして、やっと気づいた。

私は、ずっとここにいたかったんだ。

バルスの傍が、この世界でやっと見つけた私の居場所で、

失ったはずだったものの続きを、もう一度くれるような気がした。

私は、やっと――ここにいられる。
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