異世界に来て10年、伝えられないままの片想い
第7章 届いていない想い――すれ違いのまま、遠ざける理由
「バルス」
「あぁ、久しぶりだな」
ぶっきらぼうな口調で、それでもちゃんと返してくれる。
無事なのは分かっていたけれど、姿を見た瞬間、心の底からほっとした。
彼の部隊を含めた精鋭の騎士たちが、ミラージュの森に大量発生した魔獣の討伐へ向かったのは1か月前のことだ。最初の頃は状況も芳しくなく、王都ですら半月ほどは不安な日々が続いていた。それが少しずつ持ち直して、ほんの数日前、ようやく安全宣言が出された。
バルスは空いている席へと腰を下ろす。
「何にしますか?」
「あぁ、じゃあおすすめで」
注文を聞いて、そのままリースさんへ伝える。
「一緒に休憩とっといで。今は落ち着いてるし」
にっこりと笑われて、少しだけ迷ってから頷いた。
「あ、はい……じゃあ、私も同じものでお願いします」
料理ができあがると、先にバルスの分を運び、それから自分の分を向かいの席へ置く。
「一緒に、ごはん食べてもいい?」
問いかけると、バルスは少し目を細めてから、
「あぁ」
と短く答えてくれた。
席について食べ始めると、しばらく沈黙が続く。
話すことがないわけじゃない。むしろありすぎて、何から話していいのか分からない。
「あの……」
やっと出た声に、バルスが手を止めてこちらを見る。
「えと、その……」
言葉が続かないまま詰まると、バルスは小さく息を漏らした。
「考えが纏まらないなら、ゆっくり話せ」
低くて落ち着いた声に、少しだけ肩の力が抜ける。
「怪我は、もう大丈夫ですか?」
一番気になっていたことを、ようやく口にする。
「あぁ、大したことない。ジェイルの奴か、お前に大げさなことを言ったのは」
「大げさって……バルスはもう少し自分を大切にしてください」
そう言うと、バルスは苦笑いを浮かべた。
「本当に、もう大分治ってきている。それより、ミドリは元気だったか?」
話をそらされたのは分かったけど、それ以上は踏み込まないことにする。
「うん、ご覧の通り。バルスたちのおかげで、ありがとうございます。あのね、少しは休めるのでしょう?」
「ああ、3日ほどな」
「この間、結局夕食作りそびれたから……バルスがお休みの間、夕食作りに行ってもいいですか?」
そう言った瞬間、バルスがわずかに目を見開いた。
私は思わず首をかしげる。
変なこと言ったかな。それとも、迷惑だったのかもしれない。
……というか。
私って、その……バルスの彼女、みたいなものになったんだと、勝手に思っていたけれど。
――もしかして、違う?
あの言葉、本気だと思ってたのに……。
そう思った途端、自分の勘違いが恥ずかしくなって、顔が一気に熱くなる。
「ち、違うの、その……バルス怪我してるし、それに、いつもお世話に――」
言い訳みたいに言葉を並べかけたところで、
「ミドリ」
バルスがため息混じりに、言葉を遮った。
「一つ忠告だ。オレのことを信頼してくれているのは嬉しいが、オレの気持ちは以前話した通りだ。そういうつもりがないなら、あまり無防備に傍にいられても困る」
その視線が、1か月前と同じ――射抜くようなものに変わる。
私はその言葉と視線に、また情けないくらい顔が熱くなって、体が固まる。
バルスはそんな私をしばらく見てから、ふっと笑った。
そして、何事もなかったかのように視線を緩め、食事を再開する。
そういうつもりって――つまり、そういう意味で。
……でも、でも。
そもそもそういう経験なんてないし、今日明日でどうにかなるものでもないし、ちゃんと言わないと、とは思うけど――。
そこでふと、今の状況を思い出す。
……そうだった。
ここ、食堂だった。
――――――――――
家に戻ったあと、バルスは一つ、深く息を吐いた。
……困らせていたな。
ミドリの様子を思い返しながら、わずかに眉を寄せる。
あの反応を見る限り、ああいう話をされて戸惑っているのは明らかだった。
それでも、自分に構い続けるのは――やはり最初に助けたことが影響しているのだろう。
信頼してくれているのは分かる。
だが、それ以上ではない。
気持ちを伝えてしまった以上、もう以前のように友人として接し続けることはできない。
やはり、あいつを困らせる前に、こちらから距離を取るしかない。
――そう思っていた。
「あぁ、久しぶりだな」
ぶっきらぼうな口調で、それでもちゃんと返してくれる。
無事なのは分かっていたけれど、姿を見た瞬間、心の底からほっとした。
彼の部隊を含めた精鋭の騎士たちが、ミラージュの森に大量発生した魔獣の討伐へ向かったのは1か月前のことだ。最初の頃は状況も芳しくなく、王都ですら半月ほどは不安な日々が続いていた。それが少しずつ持ち直して、ほんの数日前、ようやく安全宣言が出された。
バルスは空いている席へと腰を下ろす。
「何にしますか?」
「あぁ、じゃあおすすめで」
注文を聞いて、そのままリースさんへ伝える。
「一緒に休憩とっといで。今は落ち着いてるし」
にっこりと笑われて、少しだけ迷ってから頷いた。
「あ、はい……じゃあ、私も同じものでお願いします」
料理ができあがると、先にバルスの分を運び、それから自分の分を向かいの席へ置く。
「一緒に、ごはん食べてもいい?」
問いかけると、バルスは少し目を細めてから、
「あぁ」
と短く答えてくれた。
席について食べ始めると、しばらく沈黙が続く。
話すことがないわけじゃない。むしろありすぎて、何から話していいのか分からない。
「あの……」
やっと出た声に、バルスが手を止めてこちらを見る。
「えと、その……」
言葉が続かないまま詰まると、バルスは小さく息を漏らした。
「考えが纏まらないなら、ゆっくり話せ」
低くて落ち着いた声に、少しだけ肩の力が抜ける。
「怪我は、もう大丈夫ですか?」
一番気になっていたことを、ようやく口にする。
「あぁ、大したことない。ジェイルの奴か、お前に大げさなことを言ったのは」
「大げさって……バルスはもう少し自分を大切にしてください」
そう言うと、バルスは苦笑いを浮かべた。
「本当に、もう大分治ってきている。それより、ミドリは元気だったか?」
話をそらされたのは分かったけど、それ以上は踏み込まないことにする。
「うん、ご覧の通り。バルスたちのおかげで、ありがとうございます。あのね、少しは休めるのでしょう?」
「ああ、3日ほどな」
「この間、結局夕食作りそびれたから……バルスがお休みの間、夕食作りに行ってもいいですか?」
そう言った瞬間、バルスがわずかに目を見開いた。
私は思わず首をかしげる。
変なこと言ったかな。それとも、迷惑だったのかもしれない。
……というか。
私って、その……バルスの彼女、みたいなものになったんだと、勝手に思っていたけれど。
――もしかして、違う?
あの言葉、本気だと思ってたのに……。
そう思った途端、自分の勘違いが恥ずかしくなって、顔が一気に熱くなる。
「ち、違うの、その……バルス怪我してるし、それに、いつもお世話に――」
言い訳みたいに言葉を並べかけたところで、
「ミドリ」
バルスがため息混じりに、言葉を遮った。
「一つ忠告だ。オレのことを信頼してくれているのは嬉しいが、オレの気持ちは以前話した通りだ。そういうつもりがないなら、あまり無防備に傍にいられても困る」
その視線が、1か月前と同じ――射抜くようなものに変わる。
私はその言葉と視線に、また情けないくらい顔が熱くなって、体が固まる。
バルスはそんな私をしばらく見てから、ふっと笑った。
そして、何事もなかったかのように視線を緩め、食事を再開する。
そういうつもりって――つまり、そういう意味で。
……でも、でも。
そもそもそういう経験なんてないし、今日明日でどうにかなるものでもないし、ちゃんと言わないと、とは思うけど――。
そこでふと、今の状況を思い出す。
……そうだった。
ここ、食堂だった。
――――――――――
家に戻ったあと、バルスは一つ、深く息を吐いた。
……困らせていたな。
ミドリの様子を思い返しながら、わずかに眉を寄せる。
あの反応を見る限り、ああいう話をされて戸惑っているのは明らかだった。
それでも、自分に構い続けるのは――やはり最初に助けたことが影響しているのだろう。
信頼してくれているのは分かる。
だが、それ以上ではない。
気持ちを伝えてしまった以上、もう以前のように友人として接し続けることはできない。
やはり、あいつを困らせる前に、こちらから距離を取るしかない。
――そう思っていた。