【完結】王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

11.残酷な言葉①〜側妃視点〜

王宮に上がってからは側妃としてやるべきことを淡々と行う毎日。
そこにはもちろん閨も含まれていた。
ミヒカン公爵は私が国王の子を懐妊することを切望している。どこに監視の目がある分からないから誤魔化そうとは思わなかった。

ただ私は必ずことを始める前にアンレイ様の目の前で避妊薬を飲んでいた。彼はこの薬の意味に気づいているだろうが、そのことに触れることはなかった。

――お互いに暗黙の了解。

私は国王の子を望んでいないし、彼も愛する人(王妃)に産んでもらいたいのだろう。



国王アンレイは隣国にいる王妃を心から愛していて、結果を出して彼女を取り戻そうと必死に公務に取り組んでいた。

彼が時代に名を残すような賢王かと聞かれたら、私は首を横に振るだろう。

でも愚王ではなかった。

平和な時代に王位を継いでいたならば、善良な王だと評されていたと思う。

――ただ時代に合っていなかっただけ。

貴族達を掌握する術に長けた狡猾な国王だったならば、私はここにいなかったかもしれないのに…。

それは考えても仕方がないことだった。


私達は肌を重ねても心が近づくことはなかった。きっと似た者同士だから惹かれ合わないのだろう。
狡猾になれず、非情にもなれず、そして逃げる強さもない。

――何もかも中途半端。

でも変われない、どうすれば変われるのか分からないから。




国王だって王妃だって今の状況を自ら望んだわけではない。でもそんななか民のために自分を犠牲にして尽くしている。

だから私も同じように尽くした。
表向きは民の為に、でも実際は自分の大切な人達を守る為に…。



いつしか私は慕われる側妃になっていた。

――なりたかったわけではない人生。

…でも現実を受け入れていた、私だけが辛いわけではないと。




二年後、国王アンレイの努力が報われる日が近づいてきた。

後ろ盾を得たことによって国王の政策が通って国内が安定したため、『約束通り王妃を帰国させる』と隣国が通達してきたのだ。


「国王陛下、顔がにやけております。嬉しいお気持ちは分かりますが、もう少し抑えてください」
「皆の前では気をつける。だがお前だって表情がいつもと違っているぞ、宰相」
「ごっほん、…気のせいです陛下」

アンレイ様と宰相は二人とも嬉しさを隠しきれていない。でもそれは彼らだけではなかった。
国のために犠牲になってくれた王妃の帰還に誰もが浮かれていた。

 ……そうよね、喜ばしいことだわ。

私だけは浮かれてはいなかった。
王妃が帰還したからといって、側妃をやめることは出来ないからだ。

ミヒカン公爵が許さないし、アンレイ様だってまだ後ろ盾を必要としている。


彼女は私をどう思うだろか。
自分が不在の間に夫が娶った側妃を歓迎するとは思えない。

王妃とは揉めたくはない。でも私から真実を伝えることは出来ない。

 ふぅ…、どうなるかしら……。


そもそも私が頭を悩ませることではないと気づく。
夫婦の問題はアンレイ様がどうにかするべきで、側妃という立場の臣下に過ぎない私には関係がない。


私は大切な人達を守り続けられるだけでいい。


――この時はそう考えていた。





そして王妃帰還の一週間前、私とアンレイ様は視察先の領主から是非にと請われ夜会に参加していた。

その夜会には大勢の貴族が参加していたが高位貴族は少なかった。
だから緊張した面持ちで挨拶はしてくるが気軽に話しかけて来る者は少なく、私とアンレイ様は珍しく囲まれずに済む。


「これくらいだと疲れずにすむな、アンナ」
「そうですね、アンレイ様」

彼は果実酒を飲みなが私に話し掛けてきた。
傍から見たら国王と側妃が仲睦まじく話しているように見えるのだろう、周囲は邪魔をしないように近づくのを遠慮しているようだ。

彼は私を『アンナ』と愛称で呼んでいるが、これ二年前の公爵との約束だからだ。
親しみを込めてではないけれど、お互いにその呼び方にはもう慣れた。



「…ナ、…アンナ!どうしたんだ、聞こえていないのか?」
「申し訳ありません、少しぼうっとしていました」

アンレイ様の声にハッとする。
どうやら何度も私のことを呼んでいたようだ。

「はっはは、アンナでもそんな事があるんだな」

豪快に笑いながらそう言う彼は上機嫌だった。手にしていた5杯目のグラスはもう空になっていて、顔色は変わっていないけれど珍しく酔っている。

きっとあと数日で愛しい人と会えるから気が緩んでいるのだろう。


「ほら見てみろ!あそこで寄り添い合っている二人だ」
「どちらの二人でしょうか?」

彼の視線の先には多くの人がいて、その多くが誰かと一緒にいる。
だから誰のことを指しているのか私には分からない。

「アンレイ様、お知り合いのかたですか?」
「いや、そうじゃない。初めて見る顔だ。ほら右の柱の近くにいる黒髪で青色の瞳の紳士と彼の隣でその色を纏っている令嬢。…いや、あれは夫人だな」

 ‥…あれは……あの人だ‥わ。


誰のことを指しているのかが分かった。

確かにその女性は令嬢ではなかった。
明らかにゆったりとしたドレスを着ているのは、彼女が身重だからだ。
懐妊している令嬢が夜会にいるはずもなく、その女性は誰かの夫人で間違いない。

仲睦まじく寄り添っている二人から目を離すことが出来ない。

女性のほうは知らない。

でも男性は、……私の元婚約者その人だった。

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