【完結】王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

37.怒気①〜レザ視点〜

「くそったれどもがっ!」


ガッシャーン…。
ドガッ、……ガッタン……。

俺は口汚く罵りながら近くにあった花瓶を手でなぎ払い、椅子を蹴り倒す。
部屋は瞬く間に無惨なことになっていくがそんな些細なことはどうでもいい。

「おいおい、私の部屋でやめてくれ。それにお前が怒りにまかせて壊しまくっているのはこの国のものだ。それもかなりの高級品だ、はぁ……」

ランダはそう言いながら床に散乱している花瓶の破片を拾い上げ、わざとらしくため息をついてくる。

今俺がいるのはこの国に滞在中にランダが使用している部屋だ。俺はこの部屋に入るなり手当り次第に周囲の物に怒りをぶつけていた。

まだ来てから数分しか経っていないとは思えないほどの惨状だった。

――別に構わない。

こんな部屋がどうなろうと、この国がどうなろうと関係はない。一層のこと完全に消滅してしまえとさえ思っている。


「レザム、いくらなんでもぶつかって壊してしまったが通じるレベルではないぞ」
「………」

確かにそうだろう、飾り机はぶつかったくらいで真っ二つになったりしない。
だが最初から言い訳する気はない、そんなのどうでもいい。

「私への襲撃事件とお前の破壊行為は全く関係がない。この国に変な借りは作りたくないからきっちり弁償する。もちろんお前の負担だ、レザム」

腕を組んでそう告げてくるランダ。
この顔は冗談で言っているのではなく本気だ。

 ちっ、王子のくせして細かい奴めっ。

どこからかへし折った飾りを投げ捨ててから、俺はランダのほうに顔を向けた。

「おいっ、今心のなかで私に対して失礼なことを言っていただろう!」

ランダは敏感に俺の表情を読み取ったようだ。

俺だって王族の一員だから感情を顔に出さない術くらい身につけている。
暴れている今だって、さきほどの心の声は表情に出したつもりはない。

だが俺とランダの仲だから伝わってしまったのだろう。
普段ならお互いに言葉がなくても通じるのはそれなりに便利だが、こういう時は面倒だ。

こんな時は喰い付かなくてもいいのに、食い付いてくる。


「…言ってない」

嘘はついていない。
ランダと俺は幼い頃にお互いに嘘はつかないと約束を交わし、今に至るまでそれを違えたことは一度もない。

「…だが思っていただろう?」
「思ってはいた」

聞き直す必要もないのに、ランダが正しく(・・・)聞き直してきたから、俺も否定はできなかった。

こういうところは本当に面倒くさい奴だと思う。
だがこれをまた心のなかで呟いたら、同じように指摘してくるだろう。

――面倒くさいことに付き合っている暇はない。


「ランダ、お前本当に面倒くさい奴だな。それとこれは遠征費から落とせ」

だから今度はちゃんと言葉にした。

「親しき仲にも礼儀ありという言葉がこの世にある意味を考えろ。それからレザムが故意に破壊したものは経費とは認められない」
「ちっ、…………」

 ……うるさい奴め。


ランダには俺の舌打ちが聞こえていたはずだ。
それにその後に続く俺の心の声も確実に察していたがもう何も言ってこない。

その代わりに額に手を当てながら長い溜息を吐いている。

…俺は聞こえないふりをした。



暫く経ってから俺は辛うじて原型を留めている椅子に座った。
ランダもボロボロになった椅子の強度を確かめてから恐る恐る腰を下ろす。

…壊れはしなかった。



「レザム、少しは落ち着いたか?いやすまない、愚問だったな。…落ち着けるわけはなかったな」

ランダは痛いほど俺の気持ちが分かっているはずだ。伴侶がいる王族なら今の俺の気持ちを理解できない奴はいない。
だからこそ俺が物を壊していても本気で止めはしなかったのだ。

「この国の者共は馬鹿みたいに勝手に踊ってくれる。なにも仕掛けていないのに、こちらにとって都合のいい絵を描いてきやがった。…くそっ!」

吐き捨てるようにそう言うと、俺はランダに向かって紙の束を放り投げた。


< 37 / 61 >

この作品をシェア

pagetop