【完結】王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

46.断罪②

宰相から差し出された紙の束を受け取るアンレイ。

パラパラとめくる音だけが広間に響き渡る。それはアンレイが紙をめくる音だけではなかった。いつの間にかこの場にいる全員の手にも同じものが配られ、みな黙したまま文字を目で追っている。

ランダ第一王子とレザは何も言わずにただ待っている。…この国の者達が己の過ちと向き合うのを。


「ランダ殿下、これは誠に真実でござい…ます…か」

振り絞るように声を出すアンレイ。
尋ねているけれども、もう彼は真実に気づいているはず。
だから声が震えている。

――やっと真実に向き合った。


隣国側の調査書は私にも渡され目を通した。
それは矛盾も穴も全くなかった。完璧な証拠にそれを裏付ける証人や金銭のやり取りの流れなど全てが詳細に記されている。

この国のものと違って都合よく解釈して辻褄を合わせている部分は一切ない。


「当然だ、我が国では調査書とは真実のみを記すと決まっている。だがこちらでは憶測や辻褄合わせをして自分達に都合のいい事実を捏造して記すものらしいな、アンレイ国王」
「いえ、決してそのような意図は――」

ランダ第一王子に必死に弁解しようとするアンレイの言葉をレザが強引に遮る。

「そのような意図がなかったとしたら、この調査書を作った者達は全員無能ということでしょうか?確かに王妃に繋がる証拠や状況証拠や証言はある。しかし決定的な証拠は何一つない。こんなものは誰かが罪を着せようと思えばいくらでも作れるものでしょう。それを確認すらせずに短絡的に結びつけた。この責任は誰にあるのでしょうね…」

レザは微笑みながらゆっくりと、この場にいる者達一人一人の顔を見る。
誰もがそんなレザから目を逸らす。
二つの調査書を見比べればレザの言葉が正しいと分かっているからだ。


「し、しかし我々には時間がありませんでした!時間さえあれば…」

誰も何も言えずにいるなか宰相だけが果敢に声を上げた。
彼は必死だった、この国を宰相として守ろうとしている。…愚かだが真面目な人だから。

「時間さえあれば…ですか?随分と巫山戯たことを真面目な顔で言いますね。思わず笑ってしまうところでしたよ。時間がなくて調査が終わらなければそう言えばいい。申し訳ございません、もう少し時間を頂きたいと頭を下げればいい。誠実な対応とはそういうことではないですか?宰相殿」

淡々とそう告げてくるレザを前にして宰相はヘナヘナとその場に崩れ落ちる。

彼も分かっていたのだ、でも出来なかった。
己の矜持がそれを許さなかったのか、それともただ単に周りに流されてしまったのか。
…それは彼にしか分からない。


そんな宰相を庇うようにアンレイが前に出る。

「これは全て私の責任です。この調査結果を最終的に承認したのは国王である私です。私がこの間違いの責任を負いますからどうか他の者達はお見逃しください!」

ランダ第一王子に向かって跪き許しを請うアンレイ。
臣下を守るその勇姿を貴族達は心のなかで称え、それと同時に安堵している。…これで自分達は守られると。


「当たり前のことをなぜ声高に言っている?国の頂点にいる王が責任を負うのは当然のこと、それが仕事だ。見逃せだと?過ちを犯した者を守り、無実の者を差し出そうとするがこの国の正義なのか?」
「……っ………」

呆れたように見下してくるランダ殿下。
青ざめたアンレイは唇をきつく噛み締めながら、震える手を見られまいと必死に押さえている。


「力がない国王にとって権力のある者達は必要な存在だから守ろうとする。しかし後ろ盾となりえない王妃なら守る価値はないということでしょうか?アンレイ国王」
「ち、違う!私は王妃を愛している。なんとか守るつもりだったんだ!」

皮肉を込めたレザの言葉をすぐさま否定するアンレイ。

――その言葉に嘘はない。

けれどやはり愚かでしかない。


「守ろうと…ですか?三年間も人質として耐え抜いた王妃ならまた耐えてくれるはず、その後反省した彼女を寛大な心で迎え入れるという美談を狙っていましたか?随分と自分勝手で独り善がりの愛ですね。私には到底理解できませんが、愛とは人それぞれですから否定はしません。ですが聞いていて不快なのでもう人前で愛を語らないほうが賢明でしょう、アンレイ国王。それとも吹けば飛ぶような愛を語る道化になりたいとでも?変わった趣味をお持ちのようですね」
「……わ、私は…」

言葉遣いは丁寧で決して声も荒らげていない。それなのにレザはアンレイを圧倒していた。

レザはこの場では身分を明かしておらず、護衛騎士という立場のままだ。でもその体から発せられる威圧が彼がただの騎士ではないと示している。
今までは本来の自分を隠していたのだろう。

 これがレザの本当の姿なのね…。

どちらが上か一目瞭然だった。――器が違う。

もうアンレイも宰相もその場から立ち上がることも出来なかった。

そしてレザはこの間も決して王妃である私とは目を合わせない。無視しているのではなく、私の立場を守ってくれようとしている。

――彼の愛はアンレイとは全然違う。



重苦しい空気が漂うなかでしずしずと視察団に近づいてくる者がいた。
それは側妃の養父であるミヒカン公爵だった。

「この度のこと弁解のしようもございません。国王並びに宰相に代わり、このミヒカンが責任を持って襲撃者を処罰いたします」

ミヒカン公爵の視線の先には捕らえらている数名の貴族がいた。それは隣国側の調査書に名前が上がっていた者達と一致している。
狡猾なミヒカン公爵はこの状況でどうするのが正解かいち早く察し動いていた。

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