【完結】王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

57.二人で紡ぐ言葉②

私が話し終えると彼の表情が変わる。
真剣でそれでいて強張っているようにも見えたその顔から、ゆるゆると力が抜けていく。

「問題がなくて良かった」
「えっ…??」

その問題を今説明したばかりなのだけれども…。
 
レザは確かにちゃんと聞いてくれていた。
でもランダ殿下の声は時々聞こえないことがあるみたいだから、もしかしたら聞こえていなかったのだろうか。

もう一度説明し直そうかと思っていると、彼が先に話し始める。

「容姿とかが生理的に無理だと言われなくてほっとした。勿論どんな場合も対処する自信はあった。目は抉ればいいし、入れ墨も皮膚ごと剥がせばいい」
「………」

――…たぶん冗談を言っている。

「ただ医者から回復にそれなりに時間が掛かると言われた。その間ジュンリヤに会えないのが問題だと秘かに悩んでいた。だから本当に良かった、問題が解決して。他の部分で変えて欲しいところはある場合は遠慮なく言ってくれ」
「……」

――…冗談ではなかった。

私と彼との問題の捉え方に相違があるようだ、それもかなり。
とりあえず今の自分の気持ちを早急に伝えることにする。

「深い藍色の瞳も繊細な入れ墨も美しいと思っているわ。それに他の部分もレザらしくて素敵よ、だから絶対にそのままでいて!」

最後の言葉を強調するのを忘れなかった。

――絶対に抉っても剥がしても欲しくない。


「ジュンリヤが好きなら絶対に変えない。次は俺が君の些細な問題に答える」
「……お願い?します」

解答?があるとは思っていなかった。私が説明して彼が納得して終わりだと思っていたから。
レザは意気揚々と答え?始める。

「まずは王妃の身分だが問題はない。そもそも俺のこと関係なしに、ほとぼりが冷めたらジュンリヤが自由に生きられるようにそんな枷はなくす。
ノアやあの小煩い侍女のことも考慮して最善の方法を選ぶから安心してくれ。ちなみに正式な方法と裏工作、どちらがいい?」

呆気なく問題の一つが解決してしまった。
もしこの言葉を言ったのが彼でなかったら信じなかった、でも彼はどんなことでも有言実行する。
気づけば頷いている自分がいた。

ただ最後の言葉が引っ掛かる。
私が考える正式な方法とは国自体が無くなる、もしくは相手が亡くなるか…だ。

――ここで選択を間違えてはいけない。

彼はどんなことでも有言実行するだろうから…。


「裏工作でお願いしたいわ」
「…それがジュンリヤの望みならば尊重する」

舌打ちが聞こえたのは気のせいではない。ということはたぶん私は正しい選択が出来たようだ。

 ……間違えなくて良かったわ。


ほっとしているとまたレザが答えの続きを始める。

「ジュンリヤは俺を愛していない、今後も俺の想いに応えられないと思っているのは分かった。だがそれのどこが問題なのか分からない」
「だってそれではあなたは幸せになれないわ」

レザには幸せになって欲しい。でも私が相手では彼は不幸になる。

「それは違う。そもそもジュンリヤから離れた時点で俺が幸せになる可能性はゼロになる、つまり不幸だ。愛しているからそれと同じだけ君も俺を想ってくれと、見返りなんて求めてない。ただ君を側で見守りたい、幸せそうに笑っていられるようにしたい。…そう想うことは許して欲しい。もしそれさえも拒絶されたら死にたくなる。…俺がそうなっても構わないのか…?」

レザはまた狡い尋ねかたをする。
こう聞かれたら返事なんて決まっている。

――彼はそれが分かっている。

「そんなレザは見たくないわ」

私の言葉に偽りがないと彼には分かっているから嬉しそうだ。

「あなたに幸せになって欲しいの」
「それが君の心からの願いだと分かっているから、こうして俺は、君が俺を不幸にするのを必死になって止めている」

そんなふうに言われたら、もうこれ以上何も言えない。彼は計算しているのではなく、ただ真っ直ぐな想いを隠さずに見せてくるだけ。
言葉を尽くして私と向き合ってくる。

その純粋さが羨ましくもあり、……嬉しくもある。

強引かもしれないけれどそれを不快とは思わないのは、彼は自分の考えを一方的に押し付けたりしないから。

「私の側にいるのが辛くなったり気持ちが変わったら、自分の気持ちを優先すると約束して」
「約束する、ジュンリヤ。俺の幸せを望んでくれて有り難う」

彼の幸せを願う私、そしてその願いを叶える彼。結局は彼は私の側にいることになった。
私の気持ちを最大限に尊重しながら、彼は上手く問題を解決した。

――やはり彼には敵わない。



「これで些細な問題はなくなったな!」
「…そうね」

私達の関係がどうなるかなんて考えなくていいと言うレザ。
ただ笑っていてくれたらと望んでくれている。

その気持ちは有り難いけれど素直に頷けない私がいる。

笑っている彼に合わせて微笑むと、やはり彼は気づいてしまった。

どうやら気づかないふりはしてくれないようだ。心配そうな顔をして私を見つめてくる。

「どうやらまだあるようだな…。聞かせてくれ、その胸に仕舞っていることを」

彼の隣りにいられない理由を話したけれど、話していないこともあった。

――私は自分が幸せになる未来を望んでいない。

これは彼の隣にいられない理由というよりは、自分自身の心の問題であって、誰かが関わっても何も変わらない。
だから話さないつもりだった。

でも彼は私が話すまで、いくらでも待ち続けるという顔をしている。


「これから先、私は心からは笑えないわ」

彼との些細なことでは笑えている。でもそれ以上を求められても無理なのだ。
幸せのなか笑っている自分を許せないから。

「そうか」

彼は否定もしなかったし、理由を問うてもこない。ただ優しく見つめながら先を促すための短い言葉だけを紡いでくれる。
その気遣いがそっと私の背中を押してくれる。

「今回の選択は後悔していないわ。でも私の選択によって苦しむ人がこれからたくさん出てくる。それなのに国を、民を、見捨てた私が幸せになっていいはずがない」

――未来で笑っている自分を許せない。
私は自分の選択を背負って生きていくと決めた。

「あの国はこれから確実に混乱する。貴族も民も形は違えど苦しい道を歩むことになる」

レザは適当な事を言って慰めたりはしなかった。どんな時も向き合ってくれるから信頼できる。
だからこうして私は彼に思いを話せたのだろう。


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