私が死にたくなった日(暗い話じゃないよ)(再録)

私が死にたくなった日(暗い話じゃないよ)

 

 私がはじめて自殺したいと思ったのは、十歳の時だった。

 自宅の台所で包丁を持って、唐突にそう思ったのを、何となく覚えている。

 私は当時から(今も変わらず)問題のある人間で、周囲と上手くすり合わせが出来なかった。

 当時は周囲からの圧力に日々苦しんでいたけれど、大人になった今となっては、一番周囲に圧力をかけていたのは、どうやら間違いなく私の方だった。

 でも とにかく、その日はほんとに死にたかった。

 まあ、あれから数十年経った今も生きていますが。

 死にたい!と思ったのとほぼ同時に、死んだらどうなるのか、周囲の人たちはどうするのか、それを考えて、どうやら自分という個体は自分の持ち物では無いらしい、家族の中のパーツ、クラスの中の生徒、国の中の国民、社会の中の一匹の猿でしか無い事にも気が付いて子供ながらになんだかハッとした。

 今、私は充分に生活が出来ている。

 人間関係も選択する事が出来る。

 自殺するような要素は無いはずなのに、時折、自分が早く死ぬべきであるとか、早く時間が過ぎて自分の時間が終わればいいのにという強い感情に揉まれる時がある。

 何の根拠もない感情。

 本当に勝手にそう思うだけなのに自分の価値の無さや、自分を消してしまいたいという気持ちでいっぱいになってしまう。

 だけど、死にたい歴数十年のベテランは知っている。

 私が苦しくなくなっても、世の中から苦しみは消えないのだ。

 生きるのに資格は要らないのであって、生き物は発生したからには生きていたいという原初的衝動だけで、生きる意味として充分であると思う。

 だから、まあ間違いなく私は明日もいきている。

 どうせ明日もいきているのだから、解決の糸口の無い苦しみの事はそっと脇によけて置けばいいと思う。

 所でこの、何だか分からないけど死にたくなるというのはどうやら、持つ人と持たない人がいるらしい事を大人になってから知った。

 若いころは(皆一度くらい自殺したいと思ったことがある)と思っていたし、そのようなことが書かれた本を読んだことがあったと思う。

 でも、二十代も暮れに差し掛かろうかというある日、友人に「自殺しようと思ったことは一度も無い」と言われ非常に驚いた。

 翌日職場の先輩に「友人の〇〇さんが、自殺しようと思ったことが一度もないんだって! びっくりした!」と言うと、その先輩も「えええ~~~ウッソ~~!」と本気で驚いていた。

 どうも私もその先輩も、死に興味を持った個体であるということのようだ。

 心が辛いから死にたくなるんじゃないんだ! そもそもそういう個体なんだ!

 新鮮な発見でした。

 ちなみに、私の母も一度も自殺しようと思ったことは無いそうだ。

 訊ねたことは無いがおそらく兄は自殺願望を持っていて、妹には無い様に思う。

 私が自虐思考に苛まれていたころには、この現象には名前がなかった。

 でも、今はこの現象には名前がある。


 中二病って言います。

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