君の隣は、呼吸ができる

第1話 兄妹なんかじゃない

いつまで経っても慣れない、通勤ラッシュという朝の洗礼。

(さ、酸素ぉ……!)

揺れる車内で押しつぶされそうになりながら、私は必死に空気を求めた。

つま先立ちをしても、顔を上げても、逃げ場がない。
下の空気を求めると、今度は誰かの肘が頭に当たる。

電車通勤は、私にとって命懸けの荒行だった。


若葉(わかば)、こっち」

不意に腕を掴まれ、グイッと引き寄せられる。

「ありがと……真樹(まさき)

一際背の高い幼馴染が盾となってくれた。

隙間ができたおかげで、やっと私の呼吸場所が確保された。

(はああ……助かったぁ)

私はぜぇぜぇと肩で息をした。


「掴まってろよ」

頭上から低い声が落ちてくる。

私は小さく頷いて、真樹の腰辺りのシャツをそっと掴んだ。
よく知っている柔軟剤の香りにふわりと包まれて安心する。

乗る時間が二、三本違うだけで、こんなに混むなんて……。
途中の駅で停車するたびに乗客がどんどん増えて、車内の密度が高くなっていく。


人が押し寄せてきても、どんなに揺れても、大きな真樹は動じない。

頼れる幼馴染がいてくれて、本当に良かった。
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