君の隣は、呼吸ができる

第7話 もっと大人だったら

昼間に見た、大人びた真樹の笑顔が忘れられない。
とくに、綺麗な女の人と話していたときの表情が。

休日にフットサルの試合を観に行っても、真樹が女の人と二人でいる姿はほとんど見たことがない。
だから余計に衝撃を受けた。

仕事中もずっと、思い出しては胸の奥がチリチリと焼けるようだった。
こんな気持ちは初めてかもしれない。

午後からあまり仕事が手につかなくて、珍しく帰りが遅くなってしまった。


ビルの自動ドアが開くと、昼間とは表情の違う夜の街が広がっていた。
ぬるい夜風を頬に受けながら、急ぎ足で駅へと向かう。

交差点には会社員の姿もまばらで、いつもより広く感じられた。
ほとんどの人が、同じ方向へ歩いていく。

さすがに、真樹はもう家に着いたと思う。

私たちは、朝の通勤がいつも一緒。
たまに帰りが一緒になって、外でご飯を食べることもある。

連絡は必要な時しかしなくて、大人になってからは二人きりで遊んだことはない。

高校や大学でどんなふうに過ごしていたのかも分からないし、とくに聞いたこともなかった。
私の知らない真樹がいたとしても、別におかしなことじゃない。

(小さい頃みたいに、ずっと一緒じゃないもんね……)

仕事をしながら、何度もそう自分に言い聞かせた。

そんなことを考えていたら、いつの間にか駅に着いていた。



駅のホームで電車を待っていた、その時――

「……え、若葉?」

聞き慣れた低い声が、すぐ後ろからした。

「真樹!?」

振り返った私は、さらに目を見開いた。

「えっ? まだ帰ってなかったの!?」

ホームの明かりを背負った真樹が立っていた。
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