君の隣は、呼吸ができる

第9話 理想の隣

気付けば、長かった一日もようやく終わった。

退勤処理を済ませたあと、駅前のコンビニでストッキングを買った。

一度会社に戻って、新しいのに履き替えるつもりだ。

(あーあ、もう散々だよ)

慣れない格好なんてするものじゃない。

それでも、社内では意外と評判が良くて。
沈みかけていた心が、少しだけ元気を取り戻した。

視線を落とすと、アスファルトに自分の影が長く伸びていた。
ふと、今朝の真樹を思い出す。

(何か、言ってほしかったよ……)

深いため息。

ヒラヒラしたスカートは動きづらいし、湿気で巻き髪も落ちかかっている。

慣れない靴に足が悲鳴を上げて、見事な伝線まで……。
視線を落とせば、目を逸らしたくなる光景。
このクッキリした線は、足の親指から伸びていて、このまま家に帰るのは恥ずかしい。


信号待ちをしている間、何気なくスマホを開くと、テーマパーク公式のSNS投稿が目に入った。

今年のハロウィンイベント開催決定――

そんな文字と一緒に、ハムスターのキャラクターと、王子様とお姫様が並ぶ写真が映っている。

(もうそんな季節かぁ)

そういえば、職場でも秋に向けた手帳の新商品準備が始まっていた。


正装した完璧な王子様の姿が、今朝の大人っぽい真樹と重なる。

隣に並ぶ美しいお姫様は、王子様の耳辺りに頭がある。

(このバランスがいいなぁ)


車の音が止まり、周りの足音が一斉に響き出す。
つられて前へ進んだ、その瞬間――

「……ぶっ!」

よそ見をしていたせいで、誰かにぶつかってしまった。
柔らかい感触が鼻に当たる。
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