君の隣は、呼吸ができる

第10話 息が、できる。

地元に着いて、改札を出る。
終電近い駅内には、私の他に数人しか降りる客がいなかった。

(――え)

思わず、足が止まった。

柱にもたれかかる、高い影が見えた。

(真樹……!)

私に気付いた彼は、まっすぐこちらへ歩いてくる。

ツカツカと早い足音が響く。

目の前で立ち止まり、じっと見下ろされた。


天井の白い照明に照らされたその顔は、眉間に深い皺が寄っていて、彼の表情をいっそう険しく見せた。

私は思わず、肩をすくめて身構えた。

「……最近の若葉、変だぞ?」

低く抑えられた声。
怒っているようにも聞こえて、胸がざわざわと騒ぎ始めた。

カバンを握る手にグッと力が入って指先が痛い。

「真樹だって……変、だよ……?」

(こんな時間まで……私を待ってるところとか……)

「は?」

真剣な目に、思わず視線を逸らした。

心臓が嫌な音を立てる。
これ以上ここにいたら、泣きそうだった。

下を向いて、逃げるように横を通り過ぎる。

真樹は黙ったまま。
でも、鋭い視線が私を追っている気がした。


後ろから真樹の足音がゆっくりついてきて、その音が次第に大きくなっていく。
私が小走りしても、真樹はあっという間に追いついてしまう。

住宅街に入ると、二人のバラバラな靴音だけが夜道に響いた。


気まずい。

苦しい。

痛い。

それに、胸の奥が、黒いモヤモヤでいっぱいだった。
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