王女エメリーネに悪女は似合わない~軍人公爵の盲愛に囚われて
30.
グシャッと書類の上にインクが飛び散った。どうやら知らぬうちにペン先に力を入れていたらしい。
「宰相閣下……」
秘書官がやってきては、アルマスの手からインクを拭き取り始める。
(オディロン・ベルジュ公爵……目障りなやつだ……)
エメリーネの誕生日パーティーに、オディロンが出席してからすべての歯車が狂い始めた。
オディロンはエメリーネの婚約者候補として名を連ねており、候補者の中でも、見目、身分、年齢と、すべてにおいて他の者より突出していた。いや、アルマスだって年齢さえ除けば、オディロンと大差ない。
たまたまエメリーネより二十年早く生を受けただけ。二十の年の差など、大した障害にはならないだろう。見目だって、社交の場では「宰相閣下、お話を」と、女性が次から次へと声をかけてくるくらいだから悪くはないはずだ。むしろ、整っているほうだと自負している。
それなりの地位にいるのだから見た目に金と気を使うのは当然である。身分だって、代々、宰相を輩出してきた公爵家であり、この家門と同等以上なのがベルジュ公爵家くらいなのだ。だからオディロンが目障りでしかない。
「いたっ。何をする」
手についたインクを拭いていた秘書官だが、指と指の間に入り込んだインクを拭き取ろうとして力を込めてきたところ、その爪が引っかかってしまった。
「宰相閣下……」
秘書官がやってきては、アルマスの手からインクを拭き取り始める。
(オディロン・ベルジュ公爵……目障りなやつだ……)
エメリーネの誕生日パーティーに、オディロンが出席してからすべての歯車が狂い始めた。
オディロンはエメリーネの婚約者候補として名を連ねており、候補者の中でも、見目、身分、年齢と、すべてにおいて他の者より突出していた。いや、アルマスだって年齢さえ除けば、オディロンと大差ない。
たまたまエメリーネより二十年早く生を受けただけ。二十の年の差など、大した障害にはならないだろう。見目だって、社交の場では「宰相閣下、お話を」と、女性が次から次へと声をかけてくるくらいだから悪くはないはずだ。むしろ、整っているほうだと自負している。
それなりの地位にいるのだから見た目に金と気を使うのは当然である。身分だって、代々、宰相を輩出してきた公爵家であり、この家門と同等以上なのがベルジュ公爵家くらいなのだ。だからオディロンが目障りでしかない。
「いたっ。何をする」
手についたインクを拭いていた秘書官だが、指と指の間に入り込んだインクを拭き取ろうとして力を込めてきたところ、その爪が引っかかってしまった。