黄金のレティシア ~献身的な令嬢でしたが日々のブラックな慈善生活に疲れてしまいましたので、そろそろ自分の幸せを考えたいと思います~
23 レティシアとマール
まだ、ダンスパーティーの夜会の最中。
この時の私は踊り疲れて、バルコニーで休憩していました。
「カーン嬢、よろしいかしら?」
「……はい?」
メルウィック様は、飲み物を持ってきてくださるようです。
いつもなら魔法でなんとかされるのですが、流石にこの場でそれは無粋だとか。
というわけで、少し離れた場所に人はいるものの、一人になった瞬間でした。
そこを見計らったようにガレス侯爵令嬢が私を訪ねてきたのです。
「ガレス侯爵令嬢、どうされましたか?」
青色の長い髪にアメジストのような紫の瞳を持つガレス嬢。
今夜はラカン殿下のパートナーとして参加されていましたね。
「教えていただききたいの、カーン嬢」
「はい、私が答えられることならば」
私は、とくにガレス嬢に対して思うことはありません。
なので、にこやかに対応致します。
「貴方、誰が好きなの?」
「えっ」
誰が、好き? え? 急になんの質問でしょうか。
断っておきますが、私とガレス嬢は別に友人などではありません。
それが出し抜けに好きなのは誰か、ですか?
「えっと? 好き、というのは」
「もちろん、女性として。どの殿方を好んでいらっしゃるのかしら、という意味よ。たしかカーン嬢は、まだ婚約者も伴侶もいなかったと思うけれど違ったかしら?」
「ああ、その。はい、婚約者はいませんね……」
あれ? もしかして、メルウィック様とお近づきになりたいのでしょうか?
うぅ……、そんな。かなり良い感じの関係を築けているものの、確かに私はメルウィック様の正式な婚約者ではありません。そこを突かれると……。
「いないの?」
「は、はい……」
「スワロウ侯爵令息とは、いい仲に見えたけれど?」
「そ、それは、はい。その。いい関係……だと私でも思っています、が」
「……彼が好きなの?」
うぅ? これは答えるべきですか?
恋のライバル? ならば、変に誤魔化さない方が無難な気がします。
貴族としては……どうでしょうね。
やはり意中の相手がいる以上は、真っ当にアピールするべきですか?
「……はい。私はメルウィック・スワロウ様のことをお慕いしております」
こうして言葉にするだけで、ドキドキと心臓が脈打つのが早くなっています。
「…………」
私の答えにガレス嬢は、じっと真剣に見つめてきました。
嘘か否かを見極めていらっしゃるようです。
私はまっすぐに彼女を見つめ返します。美しい、と自分で言うのはなんですが。
美しさを取り戻した女性としての自信が、今の私を支えてくれています!
……たぶん。
「……ふふ」
ガレス嬢は、少し剣呑な雰囲気だったのを崩して、柔らかい表情を浮かべました。
「本気みたいね? そうよね。だって、貴方。ラカン殿下からの誘いは断って、スワロウ侯爵令息と夜会に来たのだもの。それはそうなるわよね。ふふ」
「は、はぁ……?」
私は首を傾げて、間の抜けた声を漏らしました。どういうことでしょう?
「貴方、気付いていらっしゃないのね。意識もしていないんだわ。なら、寝た子を起こしたくはないのだけれど。もう少し、質問をしてもいいかしら?」
「は、はい、どうぞ」
なんでしょう? ガレス嬢は私に何を聞きたいのかしら。
「権力が欲しくて、貴方に惚れているスワロウ師団長と仲良くしているの?」
「え? 権力ですか?」
確かにメルウィック様は王宮魔術師団の第二師団長。
権力もあると言えばありますが……。
けれど欲しがるような権限かと問われれば、はて?
あんまりメルウィック様のことを権威がどうとかでは見ませんね。
それより『メルウィック様が私に惚れている』なんて!
そうですかね? そう思っていいですかね?
「スワロウ師団長のことを純粋に好きだから良好な関係を求めている?」
「え、はい。そうなりますね……?」
「貴族令嬢としては、より家格の高い相手に嫁ぐべきだけれど、その点はどう考えているの?」
「私の場合は、カーン伯爵家の後を継ぐ必要があります。なので婿入りしてくださる男性が必要ですが……。そこは伯爵家ですから」
しかも貧乏(改善中)の。
「相手は下位貴族、或いは平民でも問題なく見繕っていいでしょうね。まぁ、その場合は平民でも、確かな立場の者を、ということになります。家格問題ですと、逆に高位貴族の方が、お相手としては困るところです。侯爵家以上の方に婿入りをお願いするとなると、相手の身分は下に落ちますので」
メルウィック様も一応はそうなります。
ですが、彼の場合はスワロウ侯爵家を継がない次男様です。
彼が侯爵家を継ぐ立場であったなら、良縁を結ぶ目はなかったでしょうね。
「スワロウ師団長でも問題が?」
「それは、その。……まだ婚約者でもありませんので……まだ」
ここは大事なことなので。
「交渉する段階に至っていません。ただ、所感としましては良好かと思っているのですが。このドレスも侯爵家で用意してくださったのです」
「……ふぅん? そうね。上等な生地が使われているわ。既製服の仕立て直しじゃないものね。失礼だけれど、今のカーン伯爵家では用意できそうにないドレスよね」
「そうですね」
「まぁ、貴方の場合は資金を作ろうと思えば作れるのかしら」
「【黄金魔法】ですか? 正式な黄金としての売買には王宮の認可が必要ですので私的には生み出せません。それに資産として残る黄金を生むのは代償がとても重いのだと、今回の件で学ばせていただきました。これからは、あまりそういうことはしないでしょうね」
メルウィック様のおかげで、私もただの黄金を生み出すだけの魔法使いではなくなりました。
『黄金属性の魔術師』として基礎魔法を覚え始めたのです。
なので、そうしなければ私の立場がない、などとアイデンティティーに拘ることもありません。
「では、ラカン殿下と手がけていた慈善活動からは手を引くのかしら?」
「それは……そうなりますかね。わかりません。資金提供の面では協力し難くとも、現地に赴いての活動はしたい気持ちは残っています。ただ、私にはカーン伯爵家を継ぐ立場がありますから。ラカン殿下が活動を続けられるのでしたら、私が参加しなくてもいいのではないか、と考えています」
王都の貧民地区の皆様にも手は差し伸べたくあります。
しかし、私が真っ先に見るべきは、やはりカーンの領民たちなのです。
「そう。なんとなく貴方がどういう人なのかわかったわ。もう少しだけ聞かせてちょうだい。……私が着ているドレスを貴方はどう思うの?」
「ガレス嬢が着ているドレスですか? そうですね。お似合いではありますが……。ガレス嬢の髪色や瞳にピッタリとは合っていないかと」
「それはそうね。私もそれはわかっているわ。……似合っているかどうかじゃないのよ。これ、貴方に贈られる予定のドレスだったのよ。それを私がラカン殿下にお願いして贈っていただいたの」
「まぁ、そうなのですね」
ガレス嬢は、やはりラカン殿下をお慕いしているのかしら?
なら他の令嬢たちより一歩リードですね。なにせドレスを贈ってもらえたのですから。
「……」
「……」
「……? えっと?」
「……はぁ」
あれ? なんで無言のあと、溜息ですか? 私、何かしましたでしょうか?
「貴方、スワロウ侯爵令息のことしか見えていないようね。そのままなら私も嬉しいのだけれど」
「ええと?」
「なんとも思わないのね。……いいわ。直接言っておくわね。貴方、察しが悪いって、よく言われない? 鈍感というべきかしら」
「ど、鈍感……」
何がでしょうか?
「──ラカン殿下は貴方のことが好きなのよ」
「え」
……なんですって?
「気づいていなかったのよね?」
「えっ。ですが、その」
それはない……。あれ。どうでしょう。
好かれて……いましたか? 私が? 殿下に?
「貴方のためのドレスを作って、夜会に何度も誘って。明らかにアピールでしょう? なのに貴方、すげなく二度も殿下からの誘いを断って、さらに同じ夜会に別の男性を伴って現れたのよ。逃した魚は大きいと思うべきね」
「ラカン殿下が……? 私のことを……?」
「そうよ。ラカン・パシヴェル殿下はレティシア・カーンが好きだった。間違いなくね」
それは……どうなんでしょう。
「返答に困りますね……」
本人に直接言われたわけではありませんし。
「ラカン殿下が貴方に好意を寄せていると知った貴方はどうするの? 彼に嫁ぐ?」
「え、それはちょっと」
今、メルウィック様と侯爵家の皆様と、とてもいい関係なのです。
いくら第三王子であるラカン殿下相手でも困ります。
「殿下は、たしか臣籍降下したあとに公爵を賜るご予定だったかと」
「……そうね」
「そうなりますと、私の結婚対象にはできません。流石に公爵を蹴らせてカーン家に嫁いでくださいとは言えないです」
もしも、ラカン殿下と私の間に愛があったならば、共に伯爵家を盛り立てていこうと言えたかもしれませんが。
それほどのつながり、信頼関係、手応えは今まで何もありませんからね。
「……ふふ。わかったわ、貴方の気持ち。ラカン殿下は少しだけ気の毒ね。貴方には、まったく脈がないのねぇ。そんな貴方に魅了されてパートナーである私を雑に扱う殿下、か」
「え、雑に扱われているのですか?」
「貴方のダンスに見惚れてから、そのままねぇ。そんな男はチラホラと夜会にいるけれど。スワロウ侯爵令息が、にこやかに牽制しているから貴方には近寄っていかないのよ」
「ええ?」
牽制なんて、メルウィック様がそんなことを? いつの間に。
「殿下は今、腑抜けになっていらっしゃるわ。それでもダンスは完璧に踊れて、作法だけはしっかり守っているのだから、王家の教育もかなりのものよね」
「そ、そうなのですね」
ラカン殿下、そんなに私のことを想っていたのですか?
……よくわかりません。
私は、そういう目でラカン殿下を見たことがないのです。
「話ができてよかったわ、カーン嬢。スワロウ侯爵令息との良縁を私もお祈りしておくわね」
「は、はい! ありがとうございます……?」
あっ。
今さらですが、恋のライバルだったのはガレス嬢ではなく、私の方だったのですね。
ガレス嬢は、ラカン殿下に私が近づくのを牽制していたのです。
「ラカン殿下」
私が彼と共に歩く未来もあったのかしら?
……あんまり想像できないわ。
この時の私は踊り疲れて、バルコニーで休憩していました。
「カーン嬢、よろしいかしら?」
「……はい?」
メルウィック様は、飲み物を持ってきてくださるようです。
いつもなら魔法でなんとかされるのですが、流石にこの場でそれは無粋だとか。
というわけで、少し離れた場所に人はいるものの、一人になった瞬間でした。
そこを見計らったようにガレス侯爵令嬢が私を訪ねてきたのです。
「ガレス侯爵令嬢、どうされましたか?」
青色の長い髪にアメジストのような紫の瞳を持つガレス嬢。
今夜はラカン殿下のパートナーとして参加されていましたね。
「教えていただききたいの、カーン嬢」
「はい、私が答えられることならば」
私は、とくにガレス嬢に対して思うことはありません。
なので、にこやかに対応致します。
「貴方、誰が好きなの?」
「えっ」
誰が、好き? え? 急になんの質問でしょうか。
断っておきますが、私とガレス嬢は別に友人などではありません。
それが出し抜けに好きなのは誰か、ですか?
「えっと? 好き、というのは」
「もちろん、女性として。どの殿方を好んでいらっしゃるのかしら、という意味よ。たしかカーン嬢は、まだ婚約者も伴侶もいなかったと思うけれど違ったかしら?」
「ああ、その。はい、婚約者はいませんね……」
あれ? もしかして、メルウィック様とお近づきになりたいのでしょうか?
うぅ……、そんな。かなり良い感じの関係を築けているものの、確かに私はメルウィック様の正式な婚約者ではありません。そこを突かれると……。
「いないの?」
「は、はい……」
「スワロウ侯爵令息とは、いい仲に見えたけれど?」
「そ、それは、はい。その。いい関係……だと私でも思っています、が」
「……彼が好きなの?」
うぅ? これは答えるべきですか?
恋のライバル? ならば、変に誤魔化さない方が無難な気がします。
貴族としては……どうでしょうね。
やはり意中の相手がいる以上は、真っ当にアピールするべきですか?
「……はい。私はメルウィック・スワロウ様のことをお慕いしております」
こうして言葉にするだけで、ドキドキと心臓が脈打つのが早くなっています。
「…………」
私の答えにガレス嬢は、じっと真剣に見つめてきました。
嘘か否かを見極めていらっしゃるようです。
私はまっすぐに彼女を見つめ返します。美しい、と自分で言うのはなんですが。
美しさを取り戻した女性としての自信が、今の私を支えてくれています!
……たぶん。
「……ふふ」
ガレス嬢は、少し剣呑な雰囲気だったのを崩して、柔らかい表情を浮かべました。
「本気みたいね? そうよね。だって、貴方。ラカン殿下からの誘いは断って、スワロウ侯爵令息と夜会に来たのだもの。それはそうなるわよね。ふふ」
「は、はぁ……?」
私は首を傾げて、間の抜けた声を漏らしました。どういうことでしょう?
「貴方、気付いていらっしゃないのね。意識もしていないんだわ。なら、寝た子を起こしたくはないのだけれど。もう少し、質問をしてもいいかしら?」
「は、はい、どうぞ」
なんでしょう? ガレス嬢は私に何を聞きたいのかしら。
「権力が欲しくて、貴方に惚れているスワロウ師団長と仲良くしているの?」
「え? 権力ですか?」
確かにメルウィック様は王宮魔術師団の第二師団長。
権力もあると言えばありますが……。
けれど欲しがるような権限かと問われれば、はて?
あんまりメルウィック様のことを権威がどうとかでは見ませんね。
それより『メルウィック様が私に惚れている』なんて!
そうですかね? そう思っていいですかね?
「スワロウ師団長のことを純粋に好きだから良好な関係を求めている?」
「え、はい。そうなりますね……?」
「貴族令嬢としては、より家格の高い相手に嫁ぐべきだけれど、その点はどう考えているの?」
「私の場合は、カーン伯爵家の後を継ぐ必要があります。なので婿入りしてくださる男性が必要ですが……。そこは伯爵家ですから」
しかも貧乏(改善中)の。
「相手は下位貴族、或いは平民でも問題なく見繕っていいでしょうね。まぁ、その場合は平民でも、確かな立場の者を、ということになります。家格問題ですと、逆に高位貴族の方が、お相手としては困るところです。侯爵家以上の方に婿入りをお願いするとなると、相手の身分は下に落ちますので」
メルウィック様も一応はそうなります。
ですが、彼の場合はスワロウ侯爵家を継がない次男様です。
彼が侯爵家を継ぐ立場であったなら、良縁を結ぶ目はなかったでしょうね。
「スワロウ師団長でも問題が?」
「それは、その。……まだ婚約者でもありませんので……まだ」
ここは大事なことなので。
「交渉する段階に至っていません。ただ、所感としましては良好かと思っているのですが。このドレスも侯爵家で用意してくださったのです」
「……ふぅん? そうね。上等な生地が使われているわ。既製服の仕立て直しじゃないものね。失礼だけれど、今のカーン伯爵家では用意できそうにないドレスよね」
「そうですね」
「まぁ、貴方の場合は資金を作ろうと思えば作れるのかしら」
「【黄金魔法】ですか? 正式な黄金としての売買には王宮の認可が必要ですので私的には生み出せません。それに資産として残る黄金を生むのは代償がとても重いのだと、今回の件で学ばせていただきました。これからは、あまりそういうことはしないでしょうね」
メルウィック様のおかげで、私もただの黄金を生み出すだけの魔法使いではなくなりました。
『黄金属性の魔術師』として基礎魔法を覚え始めたのです。
なので、そうしなければ私の立場がない、などとアイデンティティーに拘ることもありません。
「では、ラカン殿下と手がけていた慈善活動からは手を引くのかしら?」
「それは……そうなりますかね。わかりません。資金提供の面では協力し難くとも、現地に赴いての活動はしたい気持ちは残っています。ただ、私にはカーン伯爵家を継ぐ立場がありますから。ラカン殿下が活動を続けられるのでしたら、私が参加しなくてもいいのではないか、と考えています」
王都の貧民地区の皆様にも手は差し伸べたくあります。
しかし、私が真っ先に見るべきは、やはりカーンの領民たちなのです。
「そう。なんとなく貴方がどういう人なのかわかったわ。もう少しだけ聞かせてちょうだい。……私が着ているドレスを貴方はどう思うの?」
「ガレス嬢が着ているドレスですか? そうですね。お似合いではありますが……。ガレス嬢の髪色や瞳にピッタリとは合っていないかと」
「それはそうね。私もそれはわかっているわ。……似合っているかどうかじゃないのよ。これ、貴方に贈られる予定のドレスだったのよ。それを私がラカン殿下にお願いして贈っていただいたの」
「まぁ、そうなのですね」
ガレス嬢は、やはりラカン殿下をお慕いしているのかしら?
なら他の令嬢たちより一歩リードですね。なにせドレスを贈ってもらえたのですから。
「……」
「……」
「……? えっと?」
「……はぁ」
あれ? なんで無言のあと、溜息ですか? 私、何かしましたでしょうか?
「貴方、スワロウ侯爵令息のことしか見えていないようね。そのままなら私も嬉しいのだけれど」
「ええと?」
「なんとも思わないのね。……いいわ。直接言っておくわね。貴方、察しが悪いって、よく言われない? 鈍感というべきかしら」
「ど、鈍感……」
何がでしょうか?
「──ラカン殿下は貴方のことが好きなのよ」
「え」
……なんですって?
「気づいていなかったのよね?」
「えっ。ですが、その」
それはない……。あれ。どうでしょう。
好かれて……いましたか? 私が? 殿下に?
「貴方のためのドレスを作って、夜会に何度も誘って。明らかにアピールでしょう? なのに貴方、すげなく二度も殿下からの誘いを断って、さらに同じ夜会に別の男性を伴って現れたのよ。逃した魚は大きいと思うべきね」
「ラカン殿下が……? 私のことを……?」
「そうよ。ラカン・パシヴェル殿下はレティシア・カーンが好きだった。間違いなくね」
それは……どうなんでしょう。
「返答に困りますね……」
本人に直接言われたわけではありませんし。
「ラカン殿下が貴方に好意を寄せていると知った貴方はどうするの? 彼に嫁ぐ?」
「え、それはちょっと」
今、メルウィック様と侯爵家の皆様と、とてもいい関係なのです。
いくら第三王子であるラカン殿下相手でも困ります。
「殿下は、たしか臣籍降下したあとに公爵を賜るご予定だったかと」
「……そうね」
「そうなりますと、私の結婚対象にはできません。流石に公爵を蹴らせてカーン家に嫁いでくださいとは言えないです」
もしも、ラカン殿下と私の間に愛があったならば、共に伯爵家を盛り立てていこうと言えたかもしれませんが。
それほどのつながり、信頼関係、手応えは今まで何もありませんからね。
「……ふふ。わかったわ、貴方の気持ち。ラカン殿下は少しだけ気の毒ね。貴方には、まったく脈がないのねぇ。そんな貴方に魅了されてパートナーである私を雑に扱う殿下、か」
「え、雑に扱われているのですか?」
「貴方のダンスに見惚れてから、そのままねぇ。そんな男はチラホラと夜会にいるけれど。スワロウ侯爵令息が、にこやかに牽制しているから貴方には近寄っていかないのよ」
「ええ?」
牽制なんて、メルウィック様がそんなことを? いつの間に。
「殿下は今、腑抜けになっていらっしゃるわ。それでもダンスは完璧に踊れて、作法だけはしっかり守っているのだから、王家の教育もかなりのものよね」
「そ、そうなのですね」
ラカン殿下、そんなに私のことを想っていたのですか?
……よくわかりません。
私は、そういう目でラカン殿下を見たことがないのです。
「話ができてよかったわ、カーン嬢。スワロウ侯爵令息との良縁を私もお祈りしておくわね」
「は、はい! ありがとうございます……?」
あっ。
今さらですが、恋のライバルだったのはガレス嬢ではなく、私の方だったのですね。
ガレス嬢は、ラカン殿下に私が近づくのを牽制していたのです。
「ラカン殿下」
私が彼と共に歩く未来もあったのかしら?
……あんまり想像できないわ。