別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜

六章 解放

 *****

「ヴィクトル、久しぶりね。最近会いに来てくれなかったから、寂しかった♡」
「……あぁ、すまない」
「どうしたの? 何か元気ないじゃない」

 ____最近、何か変だ。

 シャーリンの隣にいると、自分のペースを乱される。数日前のデートだって、自分が優位であることを確かめるために誘ったのに……。

 余計、心が乱されるばかりだった。シャーリンを助けようにも、見知らぬ男に呆気に取られている間に、全てが終わってしまっていたし……。
 情けないことに、足が動かなかった。自分にとって、シャーリンという存在がよくわからなくて……見ていることしかできなかった。

 だから、キャロラインに会いに来た。
 彼女に会うと、不思議と心がすっきりする。考えていたこと、全てがどうでもいいことのように感じられるのだ。

 まるで、麻薬みたいに。

「そういえば、聞いてよヴィクトル!」
「どうしたんだ?」
「今日ね、貧民街の子供がパン屋に来て……あろうことか、汚い手で私のスカートを掴んだのよ! 本当に信じられない! 元貴族の私が、どうしてあんなガキに……」

 ……シャーリンは、見知らぬ子供に腕を掴まれても笑顔だったな。腕に掴まれた跡が残るほど、強く握られていたのに。

「は~あ、早くメルローズ男爵に挨拶して、養子にしてもらわなくっちゃ……そしてヴィクトルと結婚して、たくさんの綺麗なドレスやアクセサリーを身に着けるの!」

 ……シャーリンは、その子供に自身のネックレスを迷わずあげていたな。それも、一度も何かを強請ってきたこともない。

「そういえば、メルローズ男爵との挨拶はうまくいった?ヴィクトル。……ねぇヴィクトル、ちょっと、聞いてるの?」
「あぁ……いや、すまない、聞いているよ、キャロライン」
「よかった、それで、メルローズ男爵の件は?」
「……それは……すまない、実は、接触はできたがなんの約束も取り付けられなかったんだ」

 私が正直にそういうと、キャロラインは目をすっと細めて、机をバン!と叩いた。

「なにそれ、どういうこと! 約束が違うじゃない!」
「大丈夫だ、次はうまくいく」
「本当よね? 信じてるからね……ね、私の瞳をよ~く見て、ヴィクトル……」

 言われるがまま、キャロラインの瞳を見つめる。










 ____あぁ、自分は何を悩んでいたんだろう? キャロラインより素晴らしい女性はこの世にいないのに。

 そうだ、さっきまで何を悩んでいた? 思い出せない、私は、キャロラインと結婚するんだ、そのためならなんだってやる。

 キャロラインがくすりと笑って、ベッドに誘導してくる。私はもう、何かを考えるのも億劫になって、キャロラインと共にベッドの海に沈んだのだった。
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