別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜

二章 二度目の結婚式

 身体が重い。

「……さま!」

 私、殺されたのよね。じゃあ、今の私は魂?

「……お嬢様、シャーリンお嬢様! 目を覚ましてくださいませ」
「…………え?」

 目を開けると、そこにいたのは伯爵令嬢時代の侍女。
 私、夢を見ているのかしら……。

「うたたねなんて珍しいですね。ですが、今日は結婚式なのですから、しっかり起きていないといけませんよ」

 ____結婚式?

 ハッとして、自分の服装を見る。
 ……ウェディングドレスだ。あの日と、まったく同じ……。

 これは一体、どういうことなの。

「緊張なされていますか?」

 そう侍女に問いかけられて、私は困惑しながらも「あの日」と同じセリフを返す。

「えぇ、少し……」
「大丈夫ですよ。クラウゼン侯爵はとてもお優しく素晴らしい方だと評判ですもの。きっと、シャーリンお嬢様のことも幸せにしてくださると思いますよ」
「そう、かしら……」

 やっぱり、間違いない。同じセリフに、同じ仕草。今日は、私がヴィクトル様……いいえ、ヴィクトル・クラウゼンと結婚した日だ。

「お嬢様ったら、またそんな風に卑下なさって……。そろそろ入場のお時間ですよ、いってらっしゃいませ」
「…………ありがとう、いってくるわ」

 夢なんじゃないかと自分の頬を軽くつねってみたけれど、痛い。



 これは、現実なんだ。




 意味が分からないけれど……でもこれは、人生をやり直すチャンスよ。

 きっと、神様がプレゼントしてくれたのね。




 ……まさか私にこんな幸運が訪れるなんて、思ってもみなかった。
 涙目の父と腕を組んで、会場に入場する。ウェディングドレスはこんなに重いのに、バージンロードを一歩ずつ歩くたび、心が軽くなる気がした。

 そして、バージンロードの上で先に待っていたヴィクトル・クラウゼン……いいえ、あの男と目が合う。彼の優しい微笑みに隠された素顔を、私は知っている。

 父から離れて、男に腕を絡ませる。
 祭壇の前に着いた私たちに、神父が問いかけた。

「汝、ヴィクトル・クラウゼンはシャーリン・エルフィナードを妻とし、神の教えに従い、死がふたりを分かつまで共に生きることを誓いますか?」
「誓おう。どんな過酷な運命が待っていようとも、私は生涯シャーリンを愛し続ける」
「汝、シャーリン・エルフィナードはヴィクトル・クラウゼンを夫とし、病めると時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、愛し敬い、慈しむことを誓いますか?」
「……はい、誓います」

 私も彼も、心からの愛なんて誓っていない。口先だけの誓い。でも、そのことを知っているのは私だけ。


 わぁ、と会場に拍手と歓声が沸き起こる。

 今から私は二度目の結婚をする。

 ____私のことを、殺した男と。





 誓いのキスは、最悪な気分だったけれど。
 そのキスの感触が、これは夢じゃない、私は生きているのだと……強く感じさせてくれた。

 こうして私は、またしてもシャーリン・クラウゼン侯爵夫人になった。
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