冷遇された闇王女は、隣国の王に愛される

過去

 ソレイユ光国の王宮でルミナリアは自室へ届けられた報告書を、何度も読み返していた。

「……ライラが?」

 そこに記されていたのは、ノクティス王国へ嫁いだライラの近況だった。

 ライラが吸収の魔法を使い出したこと。
 魔法の訓練を始めたこと。
 ルシアン王に大切にされていること。

 ルシアン王は結界強化のため光属性を持つルミナリアを求めているはずだった。
 だから闇属性のライラを行かせれば冷遇されるだろうと思ったのに、うまくいかない。
 それに吸収の力まで使うなんて。

(あぁ、やっぱりライラは()()()なの?)

 ならば、とルミナリアは方法を変えた。

 南都の結界から、()()()()()()()()()()()()()()()()
 吸収の力はライラだけではなくルミナリアも持っているのだから。

 その後も報告書は度々、届いた。

 南都のフォルテリアで祭りが開かれ、ルシアンと共に街へ出たこと。
 そこで強大な魔物が現れ、ライラが吸収の力を使って討伐に貢献したこと。

 そして――。

 現在、ライラが体調を崩し、眠り続けていること。

「……そう」

 ルミナリアは報告書を机へ置いた。

 ()()()()()()()()()()()()()には、それで十分だった。

 ライラの闇属性を吸収する能力。
 あれはノクティラの力と同じだ。
 闇の聖女ノクティラと、彼女の魔物化を思い出す。

 すべて知っている。
 愛され敬われ聖女と呼ばれた、誰よりも憎い片割れ。
 だから今回は彼女が疎まれるようにと動いた。双子ではなく異母姉妹だったことも幸いだった。
 彼女が冷遇され、惨めに生きればいいと思って、魔境であり、ライラを必要としないノクティス王国へと追いやった。

 だからこそ、最後の一文が気に入らなかった。

『ノクティス王は王女殿下の回復を最優先としており、魔物への対策よりも王女殿下の身を案じている』

「……ふふ」

 ルミナリアの唇から、小さな笑いが漏れる。

「なぁに、それ?」

 思わず報告書を握り潰す。
 
 前世でノクティラは愛され続けた。
 ならば、その分、今世は冷遇され続けてもいいではないか。
 今世ではルミナリアこそが、誰からも愛される聖女なのだから。

 なのに、ライラはノクティス国王に愛されているという。

「どうして……?」

 ルミナリアは報告書に記された名前を睨む。

 ――ライラ。

 前世で誰からも愛され、全てを愛したノクティラの生まれ変わり。
 今、幸せになろうとしている、憎らしい片割れ。

(やっぱり側に置いておけば良かった)

 自らの手で、ライラを冷たい場所に置き続けた方が良かったのだ。

(そうね……やっぱりそれが、一番よね。なら、あの子を連れ戻さなくちゃ)

 冷たくルミナリアは笑う。今度はライラを侍女にでもしてみようか。ルミナリアが冷たくすれば、彼女の侍女はそれに倣うだろうし、ライラは自分の身の上を思い出すだろう。あるいは王宮の端に幽閉するのもいいかもしれない。
 ライラを目覚めさせることは容易い。闇魔力に侵されている彼女に、ルミナリアの持つ光魔力を流せばいいのだ。
 
「……まずは、ノクティス王国に行かなくてはね」

 ルミナリアは呟いた。

「妹を心配する姉、というのが一番、体裁が良いかしら?」

 いつもノクティラが彼女にしていたように。
 聖女として、彼女を癒せるかもしれないとでも付け足せば、ノクティス国王も頷かざる得ないだろう。
 そしてソレイユ光国でしか治せないと告げれば、ライラを大切にしている彼ならば、それを受け入れる。

「待っていて、ライラ。すぐに連れ戻してあげる」

 憎らしい片割れを手に入れるために。ルミナリアは筆を取った。
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