冷遇された闇王女は、隣国の王に愛される

ずっと一緒に

ノクティス王城の地下に、その部屋はあった。昼ですら薄暗く冷たい部屋へと、ルシアンはカイルだけを伴って向かった。
 灯りはルシアンの持つ松明だけ。カツリ、カツリとルシアン達が立てる足音だけが響く。時折揺れる火が不気味に思えるほどの静寂が広がっていた。

 重い金属性の扉を開けてルシアンは、その部屋に入った。ルシアンはゆっくりと、その女を見た。視線の先にはルミナリアが居た。
 今までの彼女が身につけたこともないだろう、簡素な衣服に反して、手には豪奢な腕輪が付いていた。ライラの吸収の能力を何とか出来ないかと研究していた成果の魔術具だ。加えて、この部屋はノクティス王国の貴人たちを幽閉するために、魔法を封じる魔術もかけられている。

 ルミナリアは、その青い瞳をルシアンに向けた。

「……ルシス」

 恋慕が滲む目だった。それを忌々しく思いながらルシアンはルミナリアを冷たく見下ろした。

「ルミナリア王女」
「……その呼び方をするのね」

 ルミナリアは悲しそうに笑った。

「あなたは、もう全部思い出したのでしょう?」
「……ああ。けれど、君がルミアでも、俺はルシスじゃない」
 
 ルシアンの答えにルミナリアの瞳が揺れる。縋り付いていた希望を否定されてルミナリアは叫んだ。

「あなたはルシスよ!」
「違う」

 冷然とルシアンは言い切った。

「俺はルシスじゃないし、ライラはノクティラじゃない」
「それなら」
「それでも、俺は彼女を愛したんだ」

 ルミナリアの双眸から涙が溢れ落ちた。

「ルシスの記憶のおかげで、ライラを救えることには感謝しているけど、それ以上でも、それ以下でもない」
「昔と同じね。あなたはいつだって、あの女のことばかり」

 ルミナリアの中では、またルシスとノクティラが愛し合っただけなのだろう。

(哀れな女だな)

 かといってルシアンに同情する気は、全くなかったが。

「さて過去の話より、未来の話をしようか。君の今後の話だ、ルミナリア王女」

 興味がなさそうなルミナリアに淡々とルシアンは続ける。

「俺は君を殺したい。ライラの害になる可能性は、今すぐにでもゼロにしたい。けれど、君の光の力を利用すべきだという意見もあってね。しばらくは君の力を有効活用することにした」

 カイルが、スッとルミナリアの横に立ち、彼女に首輪のような魔術具を付けた。途端にルミナリアの体から光魔力が抜けていく。

「なに、これ……」
「君はこの部屋で、光魔力を奪われ続ける。良かったね、ひとまずフォルテリアの結界が戻るまでは命が長らえて。まぁ、この暗い牢獄でだけど、住めば都と言うだろう?」
「そんなの……ソレイユ光国が許さないわ」

 冷たくルシアンは笑った。

「許すさ。君は他国の街(フォルテリア)にある結界を壊し、魔の森で巨大な魔物を作った大罪人だ。まぁ、許さないというならソレイユ光国ごと滅ぼすだけだけど」
「な……」
「まぁ、俺としては、そちらでも良いんだけど、優しいライラは傷付くだろうからね。対外的には君は突如として現れた巨大な魔物に殺されたことになるだろうね。……じゃあ、さよなら、ルミナリア。俺は二度と君に会うことはないだろう」

 絶望した顔のルミナリアに背を向けて、ルシアンは部屋を去った。重い扉の音と暗闇だけがルミナリアには残された。

————

「ライラ、起きてるかい?」

 扉の向こうから、すっかり聞き慣れたルシアンの声がした。

「はい。今、行きます」

 ライラはセレーヌに手伝ってもらって身支度を整える。

 以前ならば、一人で寂しく摂っていた食事。
 王族でありながら、家族と同じ食卓につくこともできなかった。

——けれど今は違う

 セレーヌが開けてくれた扉の先には、優しく微笑むルシアンがいた。

「おはようございます、ルシアン様」
「おはよう、ライラ」

 差し出されたルシアンの手をライラは自然と取る。毎回、食事を供にするだけではなく、部屋にまで迎えにきてくれる彼の優しさが心を暖かくしていた。

「今日のデザートはベリーの巻き菓子(クレープ)が出るみたいだよ」
「本当ですか? すごく楽しみです」

 二人で並んで歩く。

 やがて辿り着いた食堂には、朝の光が差し込んでいた。

 大きな窓、長い食卓。
 そして――二人分の食事。

 ライラは席につくと、ルシアンに向かって微笑んだ。

「どうしたの?」
「こうしてルシアン様と食事をとれるのが嬉しくて」
「君は相変わらず小さな幸せを探すのが上手だね、ライラ。俺も君と食事が出来るのが嬉しいの。……何度だって一緒に食事をしよう」
「はい」

 嬉しそうに笑ったライラにルシアンは優しく笑った。

「では……」

 ライラが小さく手を組む。

「いただきます」
「いただきます」

 二人の声が重なった。

 以前は、一人きりだった食卓。
 
 今は、大切な人が向かいにいる。

 ライラは微笑みながら、料理を口に運んだ。

「美味しいですね」
「ああ」

 ルシアンも笑う。

「一緒に食べると、もっと美味しいね」

 朝の光が、二人を優しく包んでいた。

 もう、誰にも奪われない。

 今度こそ。

 二人は、生きていく。

 ――大切な人と、一緒に。
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