再会した冷徹上司は、私にだけ過保護です

第17話 スイーツと指輪

『先輩、プレゼント何がほしいですか?』

 私がメッセージを送ると、冬馬先輩は3分ほど時間を置いた。

『……何の話だ?』

『あっ、先輩のお誕生日の話です!』

 サプライズにするかどうか迷ったが、こういうのは直接本人に聞いたほうが早い。
 用意したプレゼントが、先輩の好みじゃなかったら寂しいし。

『明日、編集部で直接お伺いしても良かったんですけど、今聞いておきたくて』

 そこからまた5分くらい間が空く。
 でも、私は返事を急がない。
 先輩はメッセージでも推敲するタイプなんだろうな、と思った。
 だが、その返信は思いがけない内容で……。

『編集部では、俺の誕生日については言わないで欲しい』

『え、いいんですか? 皆さんで盛大に祝うのもいいかなって思ってたんですけど』

『俺の誕生日を知っているのは、お前だけでいい』

 そのメッセージに、心臓が跳ねる。
 つまりこれは――。

『……2人きりでお祝いしたい、ということですか?』

 返信が来るまでの時間が、あまりにも長く感じた。
 ポコッと通知音が鳴る。

『楽しみにしている』

 ――私は、なんとしてもこの誕生日を素敵な日にしなければならない、という使命感に駆られたのだった。

「――あれっ、先輩!? お待たせしました!」

 私は慌てて待ち合わせ場所に立っている先輩のもとへ小走りに駆け寄る。
 冬馬先輩は映画館のときと同じく、文庫本を読んでいた。

「……えっ、あれ? まだ待ち合わせの時間まで1時間ありますよね……?」

 今度こそ先輩を待たせないようにしようと、かなり早めに来たんだけど……。

「2時間前には着いてしまった」

「いや早いですよ!」

 思わず笑ってしまう。
 2人ともこの日を楽しみにしていた……と考えてしまってもいいのかな。

「じゃあ行きましょう! お店、予約してあります!」

「ああ」

 スルッと。
 先輩の手が、私の指に絡んでくる。

「え、あの」

「……人が多いからな」

 あ、人混みではぐれたら困るもんね……。
 ちょっとドキッとしてしまって恥ずかしいな。
 私は熱くなった顔を隠すように、うつむき加減で歩き出した。

「ここ、プリンが美味しいんですって!」

 スイーツ専門店。
 メニュー表に載っている写真は、どれもキラキラと宝石のように輝いて見える。

「お前、本当にプリン好きだな」

「え?」

 先輩の言葉に、首を傾げた。

「先輩もお好きですよね?」

「なぜ、そう思う?」

「え、だって」

 私は先輩との思い出を振り返る。

「いつも私と一緒にプリン食べてるじゃないですか」

「――」

「え、あれ? もしかして違いました!?」

「……いや」

 先輩は目を細めていた。
 この人が、嬉しいときにするやつだ。

「……それでいい」

「はいっ! じゃあ、今日はたくさん食べましょう!」

「胃もたれしても知らんぞ」

 2人でメニューをあれこれ見ながら、思い思いに注文する。
 コーヒーゼリーも苺のタルトも絶品で、思わず食べすぎてしまった。
 ……いいの。ダイエットはこの日だけは例外!
 先輩と目一杯楽しみたいもんね!

「私ひとりで払えたのに」

「働きたての社会人に奢ってもらうのは流石にな」

「ふふ。割り勘ありがとうございます!」

 店を出て、また先輩と手を繋いでいる。

「このあと、どうしようかなあ。先輩、どこか行きたいところありますか?」

「そうだな……」

 街を2人でしばらく歩いていた。
 何もないなら、このまま駅に向かって歩ける位置だ。
 先輩が、不意に立ち止まる。
 手を繋いでいた私も、つられて止まった。

「先輩? ……ここ、入りたいんですか?」

 アクセサリーショップ、かな?
 先輩、こういうの興味あったっけ?
 ちょっと意外。

 店内に入ると、先輩は物色するようにガラスケースを眺めてから、

「小日向、ちょっとこっち来い」

「はい?」

 私が歩み寄ると、先輩がガッチリと肩を掴み、猫を持ち上げるように私を椅子に座らせる。

「え? ええっ?」

「大人しくしていろ」

「サイズ、測りますね」

 店員さんが私の指に何かを巻き付けた。
 何が起こってるのか分からないまま、硬直している間に終わったらしい。

「このサイズだと、これですね」

「カードで」

 先輩が即決して、私の指に何かをはめる。

「これ……」

 指輪だ。
 ピンク色の石がはめ込まれていた。

「えっ、あの、これ……!? いただいちゃっていいんですか!?」

「誕生日の礼だ」

「対価に見合ってないんですよ!」

「気にするな」

 気にするよ!?

「申し訳ないと思うなら」

 先輩が指輪をはめた左手を持ち上げる。

「……可能な限り、これをつけていろ」

「それは、構いませんけど」

 いただきものだし、つけなかったら本当に顔向けできない。

「……ありがとうございます。大切にしますね」

 私が先輩の目を見つめると、彼は頷いていた。

「――というわけで、いただいたんですけど……こんな高そうなの、本当にいいのかなあ」

 翌日、休憩室でそんな話をすると、田島さんが何故か悶絶することになる。
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