再会した冷徹上司は、私にだけ過保護です

第23話 奇妙な2人(田島視点)

「それにしても、氷室ちゃんも変わったもんだねえ……」

 相変わらず、漫才みたいな会話を繰り広げている、氷室と小日向を眺めている。

「冷静・冷徹・冷酷無慈悲……そんなキラーマシンみたいなやつが色ボケするとは思わなかったわ。人生、何が起こるか分からないわね」

 犀川は、いかにもおかしそうにクスクスと笑っていた。
 俺は頬杖をつきながら、過去に思いを馳せるのである。

「――俺、田島晴。タージ・マハルって覚えてね」

 そんな自己紹介が、俺の十八番(おはこ)だった。
 氷室は、そんな同期を見て、笑うでもなく「……ああ」と頷く。

 感じワル。

 でも、俺は懲りずにアイツに話しかけ続けた。
 俺と氷室、犀川あたりは同期である。
 他にも数人いたけど、時が経つごとにみんな別の道を歩むのもよくある話。
 編集者から小説家に転身するやつもいるから、この業界は面白い。
 ――作家の大変さなんて編集者やってれば嫌でも目にするけど、それでも「書きたい!」という情熱に抗えないのは仕方ない。

 それはそれ。
 氷室はそれがし出版に入ってから、メキメキと頭角を現していった。
 今や編集部の若きエース。
 まあ、一部作家には手こずってたみたいだけど。
 あなたのことですよ、日暮先生。

 ……ただ、氷室には良くない評価もついて回る。
 女の子を平気で泣かせるとか。
「愛想がない」「いつも不機嫌そう」「なんか怖い」。
 編集者は愛嬌でする仕事じゃないのにな。
 俺? 俺はもともとこういう性格なんだよね。
 だからまあ、氷室のことも放っておけなかったというか。

 でも、どんなに話しかけても、アイツは態度を崩すことはなかったなあ。
 反応が薄い。
 嫌われてる感じではなかったけど、別段好かれてる感じでもない。
 多分、ずっと心にバリケード張ってるタイプなんだろうな。
 過去になにかあったのかは知らないけど。
 打ち明けてくれないから、しょうがないよね。

 ――だから、小日向が入社してきたときは驚いた。

「冬馬先輩! お久しぶりです!」

 その瞬間、空気がガラッと変わったのを覚えている。
 まず俺、氷室を下の名前で呼ぶ人、初めて見たし。
 アイツもアイツで、なんか機械人形だったのが、「血が通った」……ように見えたんだよね。

 ――え、氷室ちゃん、この子のこと、めっちゃ好きなんじゃない?

 あまりにも気になりすぎる。
 俺は小日向をそれとなくチェックした。
 先輩っていうからには、大学かどこかで先輩後輩だったんだろうとは予測がつく。
 そして、小日向に対する氷室の態度。

「お前だけは、構わない」

 ――いや、重っ。こわ。
 あの、めちゃくちゃ激重感情。
 ええ……って声出ちゃった。
 今までそんなキャラじゃなかったじゃん。
 完全に好きじゃん……。
 小日向に聞かせてやりたい、あの子がいなかった頃の氷室の様子。

 そして、小日向ちゃん、鈍っ。
 何やっても氷室の重さを何とも思ってなさそう。
 でも拒絶とかド鈍感とかではなさそう。
 何あれ?
 あの2人、何?
 俺は一気に興味をそそられた。

 そんな経緯で、犀川や後輩の小泉といっしょに、氷室と小日向の観察をするのが趣味になってきている。

 それにしても、恋愛禁止令はちょっとヒヤッとしたね。
 まさか小泉が発端とは思わなかったし、俺も巻き込まれかけたしさあ……。
 でも、アレがきっかけで、ちょっとあの2人も進展したっぽいな。よかった。
 2人とも、お幸せに……。

 ……って思ってたらまだ付き合ってない!?
 嘘だろ!?
 おもしろ~……。

「それにしても、氷室のやつ、もうちょいデレデレしたら動画撮ってやるのに」

「氷室ちゃんはね、分かりづらいだけで分かりやすいんだよ」

「はあ?」

「小日向ちゃんが風邪引いた時だけ定時で帰った」

「えっ」

「小日向ちゃんの担当作家のSNS全部チェックしてる」

「怖っ」

 犀川が思わず肩を抱いて震える。
 ついでに、「アンタも全部見てるの怖い」と罵倒された。
 氷室ソムリエと呼んでくれ。

「結局、あの2人どうなんですかね?」

 小泉が不思議そうに首を傾げている。
 どう見ても相思相愛なのに、交際する様子も見せないのは、たしかに奇妙な関係ではある。

「さあ? でもさ――」

 俺は頬杖をつき、氷室と小日向を遠くに眺めながら微笑む。

「――あの2人は、最初からああいう距離感だったよ」

 だから、まあ、あれでいいんじゃねえかな。
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