再会した冷徹上司は、私にだけ過保護です

番外編 謝罪(犀川視点)

 それがし出版の休憩室。
 コーヒーを淹れている小日向さんの背中を見ている。

「……ねえ、小日向さん」

「どうしました、犀川さん?」

 手を止めて、彼女が振り返った。

「あとちょっとでコーヒー出来ますから、もう少し待ってくださいね」

「いや、そういうことじゃない。大人なんだからコーヒーで呼び止めないわよ」

「じゃあ、どうしたんですか?」

 私は眉を寄せる。
 ……言いづらいけど、言わないわけにもいかない。

「ちょっと、言いたいことがあって。あのこと」

「……」

 小日向さんも少し眉間にシワを寄せて考え込んだ。

「……どれですか?」

「え、まさかアンタ、忘れてる……?」

「えっと……締切の件ですか?」

「違う」

「企画会議で資料落とした件……?」

「違うわよ」

「じゃあ――」

「……『氷室冬馬のお気に入りだから企画書が通った』ってやつ!」

 私は流石に耐えきれない気分になる。
 自分で思い返すと、随分ひどいことを言ったものだ。
 だが、小日向さんは「ああ」と、やっと思い出したような間の抜けた声を出す。

「あれですか」

「そう、あれ。……悪かったわよ」

 小日向さんは少しだけ目を丸くしたあと、困ったように笑った。

「いや、別に気にしてないです」

「でしょうね。アンタそういうとこあるもの」

「でも犀川さん、あの時かなり余裕なさそうでしたし」

「だからって何言ってもいいわけじゃないでしょ」

 私にしては珍しく真面目な声音に、小日向さんはぱちりと瞬きをする。

「あと、小日向さん」

 私は受け取ったコーヒーを一口飲んでから、小日向さんを見た。

「氷室のやってること、贔屓というか求愛よね」

「え?」

 小日向さんは数秒固まったあと、真顔で首を傾げる。

「Q……I……?」

「求愛」

「…………」

「漢字よ」

 小日向さんは黙ったまま瞬きを繰り返した。
 その反応を見て、私は深いため息をつく。

「アンタって恋愛関連になると急に知能指数下がるわよね」

「そ、そんなことないですよ!」

「あるわよ。仕事中のアンタ、もっと頭回ってるもの」

「いやでも、先輩はいつもあんな感じですし……」

「アンタ限定で距離感おかしいのよ。他の人にはしない」

「……?」

 通じていない。
 私は額を押さえた。

 ――氷室。アンタ、苦労するわね……。
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