再会した冷徹上司は、私にだけ過保護です

番外編 責任、とは(氷室視点)

「責任を、取ってくれ」

 ――恋愛禁止令。
 それが発布されたにも関わらず、田島が小日向に手を出した可能性に、思わず逆上した。
 資料室で小日向の肩に顔を埋め、縋る。
 困らせてしまうのが分かっていたのに、自制がきかなかった。
 小日向は、俺の頭を撫でて、顔の熱が冷めるまで、そこにいてくれた。

 編集部に戻り、いつも通り仕事を片付け、帰宅し、翌日また出勤して仕事をしながら、ずっと考えている。

 ……いや待て。「責任」とは具体的に何だ……?
 衝動で咄嗟に放ってしまった言葉に、ずっと脳内を支配されている。

 言った瞬間は理性が限界だった。
 それはもう仕方ない。
 だが、小日向に「責任を取ってくれ」と言ってしまった手前、その「責任」をどうすれば取れるのか、条件を明示しなければ。
 
 交際?
 結婚?
 同居?
 将来設計?
 そもそも俺は何を要求したんだ……??

 あんなことを言われて、小日向も困ってはいないだろうか。
 キーボードを叩く手を止め、彼女のデスクをチラッと見やる。
 ……普通に仕事をしていた。
 あいつのことだから、そんなに気にしていない気もしてきた。
 俺もパソコンの画面に戻る。

 昨日の発言は撤回すべきか……?
 いや、だが撤回したくない……。

 頭の中でずっと思考がぐるぐると堂々巡りをしている感覚がある。
 そして、また集中力を欠いてメールの誤字が増えていく。

 ……。
 俺の人生、ずっと小日向に振り回されている。
 本人はおそらくその自覚がなく、俺もそれで幸せなので構わないのだが。

 昔から、感情の処理があまり得意ではない自覚がある。
 特に、小日向関連で制御できなくなることが多い。

「先輩、新しい企画書できました!」

 不意に、彼女の元気な声が飛び込んできた。
 顔を上げれば、ニコニコといつも通りの笑顔である。

「先輩、休憩室のコーヒーメーカー、新しくなったらしいですよ」

 内緒話をするように、声を潜めて、少し顔を近づけてくるのが心臓に悪い。

「あとで、一緒に飲みに行きましょ」

「……ああ」

 とりあえず、「責任」の取り方については、おいおい小日向と話をしよう。
 俺は、休憩時間に思いを馳せながら、企画書に目を通すのだった。
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