再会した冷徹上司は、私にだけ過保護です

番外編 遊園地に行こう

「小説の取材で遊園地に行こうと思う」

「また随分と急だな」

 相変わらず編集部に遊びに来ている日暮先生が、3人分のチケットを手に持って揺らしていた。

「春ちゃんと氷室くんにも一緒に来て欲しい。もしかしたら、取材で2人の力を借りることもあるかもしれない」

「遊園地を舞台にした小説ですか? いいですね!」

「わかった」

 私と冬馬先輩は快諾する。
 日暮先生の最新作のためなら、取材への付き添いくらい喜んで。
 ……問題は、当日のことだった。

「ごめ〜ん、行けなくなった。2人で楽しんでおいで」

「えっ!?」

 日暮先生からの連絡を受けた私たちは、既に遊園地のエントランスまで来ている。

「もう、先生がいなかったら取材にならないじゃないですか!」

「あはは~。その代わり、いっぱい写真撮ってきてよ。その写真をもとに小説書くからさ」

「わ、わかりました……」

 電話が切れたあと、私はスマホをしまいながら首を傾げた。

「急病ですかね……? そのわりには元気な声してましたけど」

「……ハメられたな」

「え?」

「いや……。仕方ない、行くか」

「はい! 先生の分まで取材、頑張りましょう!」

 こうして私と冬馬先輩は、意気揚々と入園したのだった。

「先輩って遊園地来たことありますか?」

「さて、どうだったか……修学旅行で来たような気もするが……」

「じゃあ回数的には私のほうが先輩かもしれませんね!」

 私は時折、友人たちと遊園地に遊びに行くことがある。

「では、ご教授願おうか」

「はい! 頑張ってエスコートしますね!」

 冬馬先輩は微かに、目を細めていた。

「えっと、まず、遊園地って付け耳するものらしいですよ!」

「たしかに、皆なにかを頭に付けてるな……」

 友人たちと遊びに来たときは、最初に付け耳屋に寄る。
 友人の一人が、付け耳をコレクションしているのだ。

「先輩はこれとか似合うかもしれませんね」

 犬……狼かもしれない、なんかモフモフの耳。
 先輩が試着すると、周りがどよめいた気がする……いや、きっと気のせい。

「わぁ、先輩可愛いです」

「……そうか」

 私の耳は、先輩が選んでくれた猫のやつ。
 2人で買い物を終えると、私はスマホを取り出した。

「先輩、せっかくなので、写真撮ってもいいですか?」

「構わないが」

「じゃあ撮りますね。画面に入るようにもう少し寄ってください」

「……待て。2人で撮るのか」

「はい! 思い出なので!」

「そうか……」

 パシャ、パシャっと、何度かシャッターを押す。

「えへへ、待ち受けにしちゃお」

「田島たちに送るなよ」

「え、もう送っちゃいました」

「……そうか……」

「先輩、ジェットコースターと観覧車、どっちがいいですか?」

「お前の好きなものに乗る」

「やった! じゃあウルトラスーパーデラックスマウンテンに乗りましょ!」

「なんかすごそうだな」

 私は先輩の手を取って歩き出すのだった。

 週明け。

「いや~、いいもの見せてもらいました」

 田島さんは拝むように手を合わせている。

「……」

「ねえ、氷室ちゃん」

「なんだ」

「耳つけてんじゃん」

 無言。

「写真撮ってんじゃん」

 無言。

「待ち受けになってんじゃん」

 無言。

「デートじゃん」

「取材だ」

「いや無理があるだろ。取材でお揃いの耳つける?」

「……」

「取材でツーショット撮る?」

「……」

「取材で待ち受けになる?」

「……」

「あっ、田島さん! 見てください、ジェットコースターの写真! 冬馬先輩、全然怖がってないんです! すごいでしょ!」

「うんうん、すごいねえ。多分ジェットコースターどころじゃなかったんだろうねえ」

「…………」

「日暮先生が編集部に来たら、写真まとめて渡しましょう!」

「殺してくれ……」

「えっ、どうしたんですか先輩!?」

 冬馬先輩は、両手で顔を覆っていた。
 遊園地で疲れたのかもしれない。
 あとでコーヒーと、なにか甘いものを用意しておこう。
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