再会した冷徹上司は、私にだけ過保護です

番外編 【Tips】氷室冬馬は酒に弱い

「冬馬先輩って意外と飲むんですね」

「付き合いだからな」

 それがし編集部の飲み会。
 居酒屋に集合し、みんなで畳に座ってビールやら日本酒やら飲んでいる。
 氷室冬馬は、小日向春香の隣に当然のように陣取り、ジョッキのビールを少しずつ飲んでいた。
 最初は特に変化はない。
 氷室は顔色ひとつ変えず、酒を飲み進める。

 異変は、小日向がお手洗いで席を外したときに起こった。

「氷室?」

「……」

 最初に気付いたのは犀川きらら。

「大丈夫?」

「……小日向」

「は?」

「かわいい」

「え??」

「小日向、かわいい」

 犀川は飲んでいたビールを喉に詰まらせてむせた。

「ちょっと! なんかまた氷室が面白いことになってんだけど!」

 編集部の面々が一気に氷室の周りに集まる。

「ひ、氷室さん?」

「小日向、かわいい」

「指は何本に見えますか?」

「小日向、かわいい」

「ダメだ、聞いてない」

 以降、氷室は同じことしか言えなくなった。

「氷室ちゃん、水飲む?」

「小日向が持ってきた水なら飲む」

「重症だ……」

「あれ? 皆さんどうしたんですか?」

 そこへ、お手洗いから小日向が戻ってくる。

「小日向ちゃん、どうしよう。何もしてないのに氷室ちゃん壊れちゃった」

「え? それは大変ですね」

「小日向……」

 氷室は、小日向を視界に捉えた。
 顔色は全く変わっていないが、その灰色の目は据わっている。

「先輩、大丈夫ですか?」

「小日向、かわいい」

「ありがとうございます! ほら、水飲んでくださいね」

 さすが小日向、氷室の扱いをよく心得ていた。
 犀川は爆笑しながら、スマホで一部始終を動画に撮っている。

 怖いのは翌日であった。
 氷室は、全部覚えている。
 出社したが、編集部は静かなものだった。
 編集長は目をそらす。
 田島と犀川がニヤニヤしている。
 元気なのは小日向だけ。

「おはようございます!」

「……ああ」

「昨日は酔ってましたね」

「……」

「私、かわいいって褒めてもらっちゃいました」

「……」

「嬉しかったです!」

「…………」

 氷室は無事死亡した。
 その後、1日中仕事に逃げることにした。
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