さようなら、お別れしましょう
29 家族のように(1)
 王都から戻り、商業都市シャルク・ホジャでの生活が本格的に始まった。
 王宮の食事と違って、ジグルズ様の屋敷では異国の食べ物も出てくる。
 スパイスが利いたスープや平たいパン、野菜に羊の挽き肉を詰めて焼いたものなど、初めて口にするものが多かった。
 
デザートも変わっていて、バターシロップがかかったパイは、ナッツがたっぷり使用されている。
 甘くパリッとしたパイは、とても美味しい。
 食事からして、シャルク・ホジャでの生活は、毎日が目新しくて楽しかった。
 そんなシャルク・ホジャでは、現在、新しい市庁舎の建設に関わっている人々の間で、ある噂が流れていた。

『大工が言うには、市庁舎の中に議会場らしき部屋が追加されたらしい』
『もしや、公爵はシャルク・ホジャに自治権を与えるのでは?』

 ジグルズ様は町の有力者と会って、話をしているようだった。
 すぐにやれることではないから、慎重に準備していくのだろう。
 そんな中、町の人々の相談役に任命された私は――

「私の仕事は机を守ることじゃありません!」

 机を守ることに飽きた私は、与えられた町役場の部屋から飛び出した。
 部屋から出た私を待っていたのは、赤髪の男の子――ハリルだった。

「レフィカ様、しかたないですよ。だって、相談者が来ないし……」

 私の護衛を任されているハリルは、町役場の中庭で、剣の稽古をしていた。
 毎日一緒にいて話しやすく、明るい性格のハリルとは、あっという間に仲良くなった。
 侍女のジェレンも一緒に町役場へ通っているけど、今のところ、私よりジェレンのほうが活躍している。
 元々、私の教育係として選ばれたジェレンは、賢くて機転が利く。
 お茶を用意したり、窓口の受付係をしたりと、町役場の人たちの仕事をあっという間に覚え、軽やかに業務をこなしていた。
 ジェレンが淹れた香りのいい花のお茶が、町役場の空気を華やかにし、人々の心を癒す。
 
「私のなにが悪いんでしょうか……? 親しみやすさがないとか?」
「う、うーん……。それは大丈夫だと思うけど……」
「《《けど》》!?」
「レフィカ様は王妃様だから、話しにくいんじゃないかなって思います」

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