さようなら、お別れしましょう
32 夫、再び
「考えてみます」
「ああ。よろしく頼む。それから、屋敷の外へ出る時は、必ず供をつけるように。特に夜は屋敷の外は危険だからな」
夜のシャルク・ホジャの町は、昼の顔と違って、羽目をはずした旅人や酔っぱらいが多くて、治安が悪いと屋敷の人間から聞いていた。
女性が一人で歩いてはいけないと、門番から言われている。
「夜に出歩きたい時は、俺が一緒に行こう。夜の散歩も悪くない」
ジグルズ様は『絶対に駄目だ』とは言わない。
私の意思を無視せず、人の自由を――私の自由を奪うことのない人だ。
初めて出会った時から、お父様ともイーザック様とも違うと思った。
「……はい。ありがとうございます」
少しだけ泣きそうになっていたのをジグルズ様は、見て見ぬふりをしてくれた。
「レフィカは花火を見たことがあるか? 夜にしか見れないものだ」
「花火ですか? 花火は見たことがありません」
「それなら、今度、大きな花火を打ち上げよう」
ジグルズ様が語る未来の話は、私の不自由さを忘れさせてくれる。
――私に未来があると、信じていいですか?
【契約】が刻まれた自分の心臓がある左胸に手をおき、私は問いかけた。
神様か――ここにはいない父とイーザック様に。